* モアザンパラダイス【第10話】 *


 ホテルに戻ると午後三時を過ぎていた。ビーチで海水浴となると、海パンひとつで向き合うことになる。視線のやり場と緊張をどうやり過ごすべきか密かに悩んだが、それは杞憂に終わった。
 宏和が予約したマリンスポーツに、すっかりドキドキとワクワクがすり替えられてしまったのだ。ジェットスキーに引っ張られてリーフの外へ振り飛ばさんばかりに暴れるバナナボートやビスケットは、泣き場所になっていたホテルビーチの風情を一変させた。シュノーケリングや空から一望するパラセーリングあたりしか念頭に入れていなかった真幸は、ジェットコースター感覚のマリンスポーツの面白さにハマってしまった。何度も乗って、何度も大海原に投げ出されて笑う。鮮やかな海はすっかり遊び場になった。
「下手な絶叫マシンより、よっぽど迫力あるよな!」
「ほんとだよ。笑いすぎておなか痛い」
 真幸は腹をさすりながら、腰まで浸かる海を掻き分けた。上げ潮になって、浜へ押される力のほうが少し強い。日光より温かな海水を選んで水平線に向かうと、後ろから首筋をつつかれた。
「首の後ろ、Tシャツ焼けしてる」
 ドキッとして振り向けば、彼が笑っている。
 露出する部分が変な焼け方をしているのはわかっていた。宏和と会うまで、気が動転していて日焼け対策をしている場合ではなかったのだ。わずかにムッとした気持ちを堪えて足を踏み出す。小さな岩か何かに躓いた。
「ぅわ!」
 咄嗟に出た声にあわせて、後ろから支える手が胴に回った。宏和が助けてくれたのだが、抱き寄せられる体勢に戸惑った。素肌同士があたる。
 ……うわ、うわ!
 意識せずに海水浴を楽しめていた真幸も、突然の甘い接触に鼓動が跳ね上がった。彼は離すどころか抱き締める腕を強めてくる。
 妙な沈黙が真幸を混乱させた。ボロが出てしまいそうな自分と、肌を離さない男。ビーチにいる人々にどう見られているかも気になって、居た堪れなくなったあまり背をぐいっと突っ張って後ろへ重心をかけた。
「え、ちょっ!」
 真幸の異変に気づいた宏和が慌てても遅い。そのままバランスを崩してドボンと海に倒れる。事前に息を止めていた真幸はホッとして海面から出たが、手を離した宏和のほうは溺れかけたといわんばかりの形相でバサッと起き上がった。
「おまっ、真幸! 鼻! 海水はいった!」
 渋い顔でゲホゲホとむせているのを見て、真幸はついつい笑ってしまった。すると、宏和が仕返しとばかりに追いかけはじめる。
 子どもの頃にしていたようなくだらない遊びをはじまって、それに夢中になった。沈めあいにボール遊び。散々ビーチを楽しめば、やがて日が暮れてきた。観光客もまばらになった海。
 ホテルの夕食を予約していると宏和に言われ、真幸たちも引き上げることにした。くたくたになるとお腹も空いてくる。
 海水を手早く洗い流して着替え、ガーデンレストランへ移動した。潮騒と夜空を感じるBBQ。ぬるい夜風に負けず、ビールで乾杯する。喉を潤した真幸は、なんて贅沢なのだろう、と思った。
 世話を焼くのが好きという宏和に焼き物を全部任せる。彼は慣れた手つきで肉や野菜を焼いていく。向かい合って談笑しながらの食事。美しい風景の中で、好きなひととと過ごす時間が愛しい。
 トングを持った宏和が、星のきらめきはじめる空を見やった。
「もう、最後の夜か」
 ポツリと落とした台詞を真幸は聞き逃さなかった。彼は何気ない独り言として呟いたのだろう。しかし、波紋のように広がった。
 明日、宏和はこの島を離れる。
 その事実が、猛烈な寂しさを呼び起こす。
 真幸も明後日東京へ戻る身だが、沖縄で出逢った彼との関係が本土に戻っても続くかどうかは不透明だった。それに隆章とのことが残っている。手持ちのスマートフォンは電源を落としたままで、清算はされていない。
 ……でも、今だけは宏和のことだけでいい。後のことを考えるよりも、この時を楽しんで大切にしたい。
 寂しい気持ちを明るく切り替えようと空を見た。このビーチでも、流れ星はてらいなく姿をあらわす。
「流れ星、ほんとに簡単に見れるよね」
 追加のビールを手にした彼が頬を緩ませて真幸に向いた。
「願いごと祈りまくれるくらいな」
「なんか祈った?」
「うん、珍しく。祈りたいことができたから。真幸は? なんか祈った?」
 祈っている内容を尋ねるより先に、彼に訊き返される。真幸はわずかに目を伏せた。
 ……宏和が俺のことを好きになってくれればいい。そう願いたくても、ずっと躊躇ってた。でも、今日が最後の夜なんだ。
 パチパチと炭火の音と周囲の談笑が聞こえる。バカンスは終わりだ。明日、魔法が解けたように真幸は一人になる。
「部屋に戻ったら、バルコニーで祈ろうかな」
 宏和に愛されたいと、一度だけ願おうと思う。
「どんな願いごと? って、聞いたら叶わなくなっちゃうんだっけ」
 興味があるように言う彼に微笑んだ。
 同時に、部屋に戻ってから、伝えられることを彼に話そうと思った。告白をする勇気はないけれど、たくさんの感謝と素直な気持ちを話して……それで恋する想いが溢れてしまったときは、彼にゆだねようと思う。
「そろそろ戻る?」
 宏和に頷いて真幸は立ち上がった。ほどよい満腹感。真幸のほうから、部屋で従弟からいただいたスパークリングワインを開けようと言った。彼は快く同意して、客室に戻ると早速グラスとワインを用意してくれた。
 窓を開けて辿り着いたバルコニーからも、星はよく見えた。宏和が連れて行ってくれた満点星のスポットよりは劣るが、流れ星を見つけることができる。ゆっくり息を吐く。
 ……旅のはじめは絶望感しかなかったのに、嘘みたいだ。
 グラスを持った宏和が部屋を抜けてやってきて、真幸は目尻を緩めた。
「ありがとう」
「こちらこそ、な」
 渡されたグラス同士を傾けて音が鳴る。口をつけるとフルーティーで爽やかな味が広がった。
「それで、どうだった? この島のこと、少しでも好きになれた?」
 総括するような彼の問いに口元が上がる。出逢った日のボロボロだった真幸がいまだ心に残っているのだろう。
 確かに、バカンスの出だしは最悪だった。生きているのが辛いくらい、悲しくて寂しかった。海に対してもこの島の印象も悪かった。宏和と出逢わなければ、一生行きたくない県になっていただろう。今は違う。
「好きになれたよ。海も空も人も、すごくいい」
 住んでいた宏和も認める楽園という言葉。ガイドブックも、この島は楽園だと称していた。
 けれど、真幸には楽園以上だった。目の前の男と出逢えたからだ。
「そう言ってくれると、俺もすごく嬉しい」
 頭を掻きながら、彼が早口になる。
「まあ、ほら、こんなこと言っちゃうのもおかしいけど、沖縄も良いところばっかりじゃないんだよ。良いところも悪いところもある。それは内地も同じだよな。でも、真幸にだけは、俺、良いとこだけ見せたかった。この島だけじゃなくて、俺も、」
 そこまで話して途端に口をつぐんだ。自分でも何を言っているのかわからなくなって息を止めたようだ。真幸は宏和の緊張を拾って、視線をあわせた。
 目の前の男が、神妙な表情になっている。
「宏和」
 真幸は名を呼んで一呼吸した。
 彼が気まずくなった空気を蹴散らす前に、今伝えるべきだと思った。
「なに?」
 戸惑ったような宏和の訊き返す声。真幸も緊張していた。でも、それより強い想いが心を包んでいる。
「俺が泣いてたとき、宏和は代わりになるって言ってくれたけど。おれは最初から、そう思ってなかったよ」
 見下ろす彼があの日のことを思い出したように、目を見開いた。
「だって、宏和はそれ以上に、」
 言葉の続きを彼がグラスをぎゅっと握って待っている。その姿が愛しいと思う。
「おれの知らないことをたくさん教えてくれたし、どん底まで凹んでたおれにやさしくしてくれた。それだけじゃなくて、短期間でいろんな経験もさせてくれて、ワクワクできて、……そういう旅行して来なかったから」
 宏和と一緒でなければ得られないことがいっぱいあった。隆章には無理だ。彼は学生の貧乏旅行のときでも、緻密に計画を立ててその通りにキッチリ実行するタイプだった。その日その日の思いつきと行動で人を動かしていく宏和とは性格が根本的に違いすぎて、代わりになんて最初からなれない。
 そして、感情に素直な宏和のほうがいいと、真幸は思えたのだ。
 本心を伝えると、宏和は少しムッとするような表情になった。小さな変化から、ミステイクに気づく。
「ごめん、……比較した」
 真幸は気まずい気持ちになった。ずっと隆章と比較していたわけではない。けれど、真幸の好きなひと・付き合ったひとの基準はずっと隆章で、ふと違う部分に気が向かうときは引き合いに出してしまう癖がついていた。目の前の男は特に、顔の造作や背格好が隆章と似ていたせいもある。
「本当に、ごめん」
 正直に頭を下げると、宏和がグラスの中身をぐいっと飲み干した。
「いいよ。比較して」
 言った彼は、暗闇に聞こえる海の音を見つめて、もう一度口を開いた。
「比較して、俺が勝ってれば、全然いいよ」
 はっきりと気持ちを口にした横顔を真幸は食い入るように見た。
 今までのことが鮮やかに思い起こされる。
 触れた肌、握られた手、好意の言葉。
 ……もしかして、すべての意味が、本当に、おれが願う通りなら。
 彼が意を決したように真幸へ向く。真剣な表情で尋ねる眼を見た。
「俺、勝ってる?」
 じーっと譲らずに見つめる瞳に、間違いなく求められているものを感じる。宏和は喜怒哀楽がわかりやすいのだ。顔が赤くなった。
 ……おれも男だからわかる。今の表情、したい、ときの顔だ。
 真幸は浮き立つような期待感とともにゆっくり頷いた。ここで拒否すれば、何もなかったことになってしまう。それだけは嫌だった。
「一緒にいて、すごく楽しいんだ」
 恋している言葉よりも、彼に似合う台詞を送る。間髪を入れず、宏和が身体を屈めて顔を近づけた。
 キスされることにすぐ気づいても、真幸は逃げなかった。
 くちびるがそっと重なって、すぐ離れた彼が請うように見つめる。
「こんなこと、されても?」
「宏和に逢えてよかったって、思ってる」
 弾かれたように男の腕が身体に触れ、胴を回り、ぐいと抱き寄せられた。
 何をされてもいい、というわずかなニュアンスを彼が見つけたのだろう。密着する体温は熱い。真幸も我慢できず彼の背に手を回した。
「嫌だったら、ごめん、マジで、我慢してたんだけど、」
 耳元でささやかれ、頬を触れられる。
「したい。真幸と、してみたい」
 ストレートな願いを、真幸はぎゅっと力をこめて聞いていた。
 星に祈らなくても叶えられた。けれど、想いには、躊躇が残っている。一緒に旅行へ来る予定だった隆章と話がついていないからだ。そんな状況で新たに愛しいひとを見つけ、愛情を確かめ合うことは不浄で裏切りになるのではないか。
 ……でも、隆章は恋人じゃない。
 とても重要な事実が、傷つくこともなくこぼれ落ちた。
 真幸の中で、恋人がもう恋人ではなくなっていることに気づいた。頑固に隆章にすがり続けたいと思っていた自分は、すでにいなくなっていた。
 未練を引きずる前に、宏和が救い出してくれたのだ。
「おれも、宏和と、」
 すべて言い切る前に、くちびるを塞がれた。同じ気持ちだとわかったらしい彼は、情熱的なくちづけをはじめる。深いキスに慣れない真幸は舌が絡むとグラスを落としそうになった。
「……ん、……っン」
 かたちを確かめるように粘膜が行き来する。キスだけで電流が貫くような感覚は、はじめての経験だった。糸を引く唾液をぼーっと見る。宏和に握り締めていたグラスを抜かれ、代わりに男らしい手で握られた。
 手を引かれ部屋の中へ入る。ベッドに座った真幸はグラスを置き窓を閉める彼を見た。
 新たな緊張を覚える。セックスと言っても、一人のひととしか経験がない。しかも、恋人だった男は最初から最後までとても淡白なひとだった。
 ……同性としたことはあっても、最後までしたことはないって言ってた。宏和はどこまでするんだろう。
 宏和が戻ってくる。隣へ座る姿に視線を向ければ目があった。真幸は近づいてくるくちびるを見遣ってすぐに伏せる。
 バルコニーでしたようなキスが早く欲しい。そう願っている自分の欲に気づく。望むまま、くちびる同士が触れた。滑らかな舌が差し込まれ、喉を鳴らす。
 ……キス、すごく、気持ちいい。
 支えを求めるように宏和の首へ手を回した。彼の指は器用に真幸のシャツのボタンを外していく。海水浴の後は食事だけだと言っていたからインナーは着ていない。素肌に男の手が触れ、質感を確かめるように骨格をなぞる。くすぐったいと思ったのはつかの間、くちづけのせいですぐ快感へ摩り替わった。
「……っ、ん、……ぁ、ふ」
 胸元の薄い皮膚を撫でられる。顎から垂れた唾液が履いている黒パンツに落ちて染みをつくった。
 ……もっと触られたい。抱き締めてほしい。おれは、最後までしたい。
 長いくちづけが離れ、宏和がシャツを脱がしながら真幸の顔を覗き込んだ。
「忘れられない?」
 理性を残した表情を悟って、彼は気になったらしい。真幸は首を横に振る代わりに微笑んだ。隆章に操を立てたとしても、すでに独りよがりで無駄なことだ。
 ……宏和を大切にしたい。もっと深く彼を知って、感じたいんだ。
 二人が気持ちよく繋がるためには、あったほうがいいものがあった。
「ちょっと、待ってて」
 彼を制して立ち上がる。横倒していたキャリーバッグを開き、奥底に押し込んでいたプラスチックボトルを取り出した。
 ……恥ずかしいけど、これを使うほうがいいから。
 事前に用意していることを知られるのは複雑な気分だ。宏和も前の男を思い出して嫌な顔をするかもしれない。
 でも、真幸はボトルを彼の前で見せた。潤滑剤になるローションだとすぐ気づいたらしい。目を大きくして見上げられる。
「これ使ったほうが、お互い楽だから」
 渡すと受け取ってくれる。宏和の顔が見れず、視線を下げる。
「こんなの用意してて、ごめん。でも、おれは宏和と、最後までしたい」
 素直な欲望を口にした瞬間、腕を強く引っ張られた。体勢を大きく崩すと宏和に抱き締められて、ベッドに雪崩込む。シーツの上にローションボトルが転がり、男が覆いかぶさった。彼は真顔だった。獣に襲われたような気分になって肩をすくめる。
 しかし、強引な瞬間はそれだけだった。宏和は花弁に触れるように、頬に触れた。くちびるが音を立てる。何度も繰り返されるついばむキスは、真幸をしあわせにさせた。口元を薄く開く。彼は真幸の欲しいものを見つけたように、くちびるを重ねた。
 宏和は間違いなくキスが上手いひとだ。ふわふわしていく甘い感覚に覆い尽くされる寸前の理性で確信する。
 零れ落ちそうな唾液を、くちびるをずらした宏和が舐めて吸った。身体のかたちにあわせて指がなぞる。ゾクゾクする皮膚は、着付けているものをすべて取り払いたい思いにさせた。久しぶりの熱が真幸を奮い立たせる。
「塩味がする」
 耳元に残った海の跡を宏和が舐めた。気持ちよく感じながら、下を脱ぎたい素振りをすると手伝ってくれる。同時に宏和がTシャツを脱いだ。あらわれた男らしい身体つきに見惚れてしまっていると、彼の指が鎖骨から乳首へ下った。
「っ……ん、」
 すりすりと撫でられて皮膚がこわばる。感じていることに気づいたのか、彼が顔を寄せてきた。執拗に片方の乳首を舐められる。胸の刺激に耐えていると下肢から電流のように跳ね上がる感覚で背筋が張った。
「あっ……んっ……ぅあ、んッ」
「すぐかたくなった。気持ちいい?」
 くちびるを離した彼が、真幸の性器をこする手を止めない。躊躇いなく男のしるしをいじられて、真幸はヒクヒクしながら首を動かした。
「ん、いいッ……あ、あっ」
「だすのみせて」
 その言葉は火照る身体にさらなる熱を呼ぶ。吐き出させるために動く彼の指に翻弄され、射精の瞬間はすぐに訪れた。
「ン、あぁッ!」
 身体をふるわせて、シーツをぎゅっとつかんだ。飛び散るものを片手で受け止めた宏和がベタベタになった指を奥にある穴にすりつけてくる。挿入の場所はちゃんとわかっているようだ。
「ひろか、ず」
 快楽に身をまかせて出した声は少し濡れている。真幸は照れながらも確認した。
「いれる?」
 宏和は間接照明の中で、真面目な顔をして見つめていた。
「いれたい。いいよな?」
 返答は率直で、嬉しくなる。一度抜かれた熱を拾うように、転がっていたボトルを手に取った。
「これ使って、」
 蓋を開けて、ローションを自分の手に垂らす。こぼれるくらい出して、躊躇いなく脚を広げた。宏和がじっと観察している。恥ずかしいと思いつつも、真幸は躊躇いなく受け入れる口を自分の指で撫で、細い中指をゆっくり入れた。
「おれ、ほぐす、から」
 久しぶりに感じる自分の生々しい体温。スムースに挿入できるように、血が出ないように、真幸は昔から幾度となく自身でほぐしていた。
 指は、自分の性感帯を知っている。そして、一番感じるところは自分の指では届かないことも知っている。ほぐすときは、期待で皮膚がふるえて吐息がもれる。
 今も、宏和をはじめて受け止める歓喜を指で少しずつ拓いている。
 くちびるをきつく結んで、ピクピクと薄く動く下肢に潤滑剤を塗りこめた。二本目の指でぐちぐちと出し入れをはじめると、あと少し。感じるところを指で押し、受け入れ口の収縮が柔らかくなると真幸は喉を鳴らした。
 ふと宏和を見ると、真幸の濡れた指と穴を凝視していた。彼から見ればこれはマスターベーションだ。唐突に見せられて驚いているのだろう。
 しかし、真幸はそれよりも彼の下肢に目がいった。ほぐす作業に入ったときに脱いだらしく、宏和は全裸になっていた。その中心にギンギンにそそり立っているものが見えて、パッと目を逸らした。
 ……宏和が、勃起してる。
 それは羞恥より歓喜と興奮を引き出した。自分の身体で性器を勃ててくれた彼。
「ぁ、……ん、……ふ」
 ぐちゅぐちゅと音が鳴り、自然と声がもれた。内壁がやわらかく刺激を受け止めるようになって、三本目。
 ぐい、と、太腿を上げられた。指の入る角度が深くなるとともに、宏和の指が侵入を試みた。
「あ、ンっ!」
 真幸より太く長い、濡れた男の指。すぐに自分の指を引き抜いた。
「えろいよ、真幸、」
 くちゅ、くちゅ、とゆっくり出し入れされて、真幸の体内は狼狽したように収縮した。スムースに動くことに自信をもったのか、宏和は二本にして、より深くまで指を押し込む。
「ん、あ、ッ、ぁん、」
「痛くない? どこが、気持ちいい?」
 内部で特徴的な部分に気づいたのか、いたずらに撫でられると背が反った。
「い、ぁあっ、待っ、アッ! あっ、ン!」
「ここ? いい?」
 早々と前立腺を見つけられ、何度も快楽のボタンを押される。電流がそこから四方に散って、真幸はつま先に力を込めた。
「やばい。すごい」
 宏和が三本の指を押し込んで引く。きゅうきゅうと締める筋力が、もっと大きなものを探している。はぁ、はぁ、と、快感に半労されながら、真幸は彼の性器を見た。
 ……早く、ほしい、早く。
 愛されることに飢えている身体は宏和を求めていた。彼の指が抜かれて、喉が鳴った。
「いい?」
「い、いいよ」
 受け入れる口に男の熱が当たる。大好きな感覚だ。シーツを握り締めて、次に訪れる圧迫感と太い体温のために最大限に弛緩する。すんなり亀頭が入ったせいか、宏和のスピードを緩めない。
「ゆっく、……ッッ! あッ!」
 ゆっくり、という前に、汗ばむ太腿をつかまれ引き寄せられた。強い力で、ぐいっと押される。
「ちゃんとはいってく、中、やばい、」
「はっ……あ、……あ、っあ」
 息継ぎを整えようにも、男の熱が真幸を貫いて離さない。内壁がビクビクふるえながら、彼のかたちを飲み込んだ。
「ぜんぶ、はいった」
 彼の言葉で、無意識につむっていた瞳を開いた。宏和が真幸を見て、頬に触れた。目尻から涙の粒が拭われる。
「ん、……ひろかず、いい?」
 充分育った彼の性器が、真幸の中でふるえた。
「すげえ、イイ」
 真剣な表情に紛れもない恍惚が宿っている。そんな宏和の顔が見れただけでも、真幸は嬉しくて愛しくて泣きそうになった。彼の腰が動くと肌が跳ねる。身体と想いが繋がる感動と悦びは、瞬く間に深い快感へ変わっていく。
「アッ! っあ、……ぁん! ぁあッ!」
 感情的なストロークで腰を浮かせられて、突き上げられる。耐え切れず汗に濡れた男の肩へ手を回してしがみついた。びっくりするほど感じて、とけてしまいそうだ。
「ッあ、あ! あ、はッ!」
 呼吸もままならないのに、くちづけられて舌を追いかけられる。勃起してしまった性器をやさしく撫でられ、二度目の精が放たれた。それで意識がはっきりするはずなのに、自分が今どうなっているのかわからない。激しく打ち付けてくる宏和と繋がっているところだけが異様に鮮明だ。
「あっ、ン、あっ、アッ、ぅんッ!」
 彼の熱に染まりたくてきつく締める。抜かれそうになる雄を無意識に追い求める。中で果てたいという彼の望みを、身体いっぱいに許す。
「はっ、あ、……ン、ッン、あっ、あっ」
 ゆすられ見つめあって快楽を共有する。
 ……もっと、もっと欲しい。
 真幸は体内に精を吐く宏和を抱きしめて、大きく彼のにおいを吸い込んだ。




... back