* 四季のエクストラ【第1話】 *


 ……クーラーをかけているのに、暑くて目覚めるのはコイツのせいだ。
 笹丸仁は着替えを終えると、呆れ交じりでシングルベッドを見下ろした。遮光カーテンから早朝の光がゆらゆらと不思議な輪郭をつくる時間帯。
 日差しの行き着く先には、体温の高い男が眠っている。
 足下に床敷きの客用布団はあるけれど、最近ずっと抜け殻だ。また仁が寝ている間に、この男がのっそりとベッドへ這い上がってきたのは間違いなかった。男二人が寝るには手狭なベッドなのだから、仁は彼の体温で目覚まし時計より先に目が覚めてしまうのだ。
 ……野郎が野郎にひっついて、なにが楽しいんだよ。
 毎朝懲りず出くわす事態に、仁はリモコンを持ち上げて冷風を消す。ため息を向ける代わりに声をかけた。
「陽介、起きろ」
 背向けてタオルケットを被る彼からの反応はない。
 しかし、仁は知っていた。この加納陽介という男は、ときどき狸寝入りをしていて、仁に起こされることを待っているのだ。
「おい!」
 片足を上げて、その図体を軽く蹴る。身長も体格も仁と大差なく平均的な男だが、常に明るい茶髪で愛想を振りまくのも上手だ。最近髪質が荒れてきた、と陽介は悲しげに嘆くが、そう思うのであれば黒髪に戻せばいいだけの話だと思う。現に、仁は人生で一度も髪を染めたことがない。
 身じろぎした陽介はタオルケットをぎゅっと抱き締めて、ゆっくり息を吐く。人のベッドでくつろぐ様子に、眉を寄せた仁は、力任せにもう一度彼の腰を蹴った。
「起きろ!」
「ッ、いてーよ! 朝から暴力反対!」
 思ったとおり、寝起きにしてはやたら元気な第一声を上げて、陽介が寝返りを打った。整えた眉を下げて仁を見上げる。
 情けない顔をしていても、陽介はアカ抜けた印象があった。欧州文化学科の大学生という肩書きも見てくれも明らかに軟派で、女性によくモテる。一部に反感を持たれそうな遊び人の風体だが、彼には持ち前の愛嬌があって友人も多い。まったく嫌みがない性格なのだ。
 だからと言って、安眠を妨害されるのは別の話である。
 勝手にベッドに入ってくっつくな、と、諭したいが、効き目がないことは明白だった。毎度同じ忠告を繰り返すのはさすがに辟易して、仁は理性で文句を脇に避ける。
「今日から後期がはじまんだろ。起こしてって言ったの、おまえだよ」
「うう、でも、もっとやさしく起こしてよー」
 タオルケットを握り締めた陽介が、自分のしていることを棚に上げて甘えた素振りをする。女に対しては効き目があるのかもしれないが、仁はあいにく男だった。
「勝手にベッドに侵入して、睡眠妨害してくるおまえに言われたくない」
「ええー、なにそれ、がんばって風呂まで入ってきたのに。朝からすげー傷つく。行く気失くした」
 陽介は懲りずに口をとがらせて返答する。同じ進学高出身者とは思えない素振りだ。
 仁の友人に、ここまでチャラチャラした男はいない。通う大学は理系で堅物が多く、仁自身も軟派な性格はあまり好きではないのだ。
 ……すっかり、家にコイツが入り浸るようになっちゃったよ。
 今日も朝から脱力しつつ、仁は思い起こす。陽介は同じ進学校出身といっても、選科は異なっていた。そのため高校時代は、名前と顔は知っていても、ほとんど言葉を交わしたことのない間柄だった。仲良くなったのも、大学二年になったこの春を過ぎてからのことになる。
 転機は、仁が担う家庭教師宅に陽介もやってきたことだ。同高出身で共通の友人もいたこともあって面識だけはあった。だから、出逢ったその日に打ち解けた。
 アルバイト先は笹丸家に近く、仁の両親は海外赴任中。となれば、陽介はあっという間に仁の生活の一部に溶け込んでしまった。しかも、陽介は仁兄弟が厭う家事を引き受けてくれるのだ。追い出すには少し惜しい存在になってしまった。
 朝の弱い陽介を起こすことも苦ではない。直してほしいのは、彼のベッド侵入癖だけだ。
 この家に泊まるようになって一ヶ月を経たず、仁の眠りを妨害する悪い癖ははじまった。寝床に侵入する理由についてはじめは、寒いから、足が冷たいから、と、その場しのぎの言い訳をしていたが、陽介は体温が高い。仁からその指摘を受ければ、抱き枕がないと寝れない体質なんだもん、と、ふつうならば気恥ずかしくなるような言い訳を使いだした。直す気はなく、今朝もこの調子だ。
 仁は男と添い寝したところで、なにも楽しいことはない。それに、陽介は現役で彼女がいる身の上だ。
 カノジョとやれ、気持ち悪い! と、仁はすでに何十回も訴えている。しかし、彼は聞く耳を持たない。抱き枕を買ってこい、と叱ったときには、本当に素直に買ってきたのだが、結局使う気はなく、未使用のまま客間に転がっている。
 口先で叱っていたのは、宿泊回数が週二回だった頃までだ。仁の両親が夏期帰省を終えて海外赴任先に戻ると、陽介はここぞとばかりにほぼ毎日仁の家を訪れるようになっていた。週に五度もベッドに侵入されれば、怒りを通り越して呆れしか出てこない。
 余っている客間をおまえにやる、と言っても首を縦に振らず、代わりに仁が床で寝て、ベッドを空け渡しても陽介はかならず仁が眠る布団に潜っている。最近は、狭いなりに睡眠を確保する対処法まで身に付いた気がしてならなかった。理不尽な学習だ。
 一方で、宿泊日数が増えたことには黙認していた。陽介は家事も料理も比較的好きらしい。妙にかいがいしいところがあるのは、幼い弟妹四人を持つ大家族の長男だからだろう。
 深夜帰宅を母親が迷惑がるのと、家の喧噪から逃れるために仁の家に居させてほしい、なんて言われてしまうと出て行けなんて返せない。それに、陽介はアルバイトを常時二つ掛け持ちしている身で、元より外出していることが多かった。仲間内の飲み会も頻繁に出ていて、仁が仕切る門限の午前一時半ギリギリに帰宅してくるときは、大抵力尽きてリビングのソファで沈没している。
 陽介の昨夜の帰宅もそれに近かったが、シャワーを浴びる気力は残っていたようだ。笹丸家の規則である『風呂入らぬ者は布団の中へ入るべからず』を従順に守っている。その上で仁にくっついて熟睡しているのだから、タチが悪かった。
 低血圧の陽介に、根気よく仁は言葉をかけた。
「風呂に入るのは当然だ。今日は大学の講義登録の日って言ってたのは陽介だよな。行かないと、どう考えたってヤバいだろ」
「うーん、そうなんだよなあ。夏休み明けってだるい」
 子どものような表情をして、彼が目を閉じる。タンクトップに短パンの格好から、離れる気がないのは明らかだ。
 仁は軽くため息をついて、掛け時計を見た。時刻は朝の六時半。そろそろ、大学受験生である頼が朝食をせがんでくる。朝食だけは仁の担当と決まっている。陽介は低血圧気味で、弟の頼には溺愛しているシェパードの散歩があるからだ。
 一軒家の下階でドタドタと物音がする。それはすぐ階段を昇る音に切り替わった。軽快な足音を聞いて陽介がぱちりと目を開け、ノック音と同時に起きあがる。仁は振り返って、ドアを開けた。
「はよ、陽兄起きてる?」
 学生服を着た仁の弟が、明るい表情で陽介を探した。ベッドの上に座るぼさぼさ頭が、それに片手を上げる。仁のベッドを占拠していることに、彼は疑問すら抱かないようだ。
 頼は、陽介を第二の兄としてすっかり慕っている。
「おはよ、頼。ハーランドの散歩してきた?」
「うん。ご飯も少しあげてきた。でも、夜の散歩は頼んでいい? おれ、今日は予備校の講義がふたつある日なの」
「おう、夕方には多分帰ってこれるからやっとくよ。仁は今日家にいてくれる?」
 最近の頼は特に、陽介が仁の家に帰ってくることを前提にして話を進めている。仁はこの状態で、伺いたてるような二人の視線に突っ込みを入れる余地がなかった。
「……いると思うけど。最悪おまえが早く帰れなかったら、オレが散歩しておくよ」
「え、じゃあ、絶対早く帰ってその散歩についてくー」
「だったら陽介が散歩してくれよ」
「えー、一緒に行こうよー俺と散歩しよー」
「なんなんだよ、おまえは」
 弟に頼まれた趣旨が、陽介の言葉で容易くねじ曲げられる。
「どっちでもいいから、ハーランドのことよろしく!」
 頼はお礼を言うついでに、英作文の添削を陽介に頼みはじめた。
 マイペースな二人は、目に見えて気が合っている。これが陽介を追い出せない理由のひとつにもなっている。
「ほらほら二人とも、学校遅れるなよ」
 仁は、似たもの同士の陽介と頼を呆れた様子で見つめながら、声をかけて自室を出た。とりあえず、仁にとっては朝食の準備が目下の仕事だった。



 番犬で選り好みの激しいシェパード、ハーランドに懐かれた時点で、加納陽介は仁の両親から歓迎される対象となった。弟の頼がかわいがっている飼い犬の目は疑いようもない。
 事実、陽介は裏表がなく底抜けの楽天家だ。マイペースなところもあるが、分別のつかないコドモというわけでもない。
 それは、目の前にある共通の友人、吉秋龍弥に訊かなくてもわかっている。
「で、加納はまだそっちいんの?」
 おもしろそうに笑う背の高い龍弥に、仁は呆れ混じりの表情を湛えて頷いた。
 吉秋は仁と同じ中学、高校に通った友人だ。陽介の悪友でもある。
 同じ高校出身だったはずの陽介と仁に、当時吉秋を通す以外で接点がなかったのは、仁が理数特進コースに在籍していたせいだ。普通科のことを、仁は今もよく知らない。
「いるよ、今日は後期の登録日で朝早く出て行った。明日は自分の家に帰るって」
 帰宅ラッシュ前の駅周辺は、スーパーを除いて人通りもまばらだ。地元が同じ吉秋と最寄り駅で待ち合わせるときは、書物の貸借にまつわることが多い。今回も、彼に物理の専門書を渡す目的で落ち合ったのだ。そのついでに興じる雑談は、近頃では陽介の話題が多い。
 その陽介は、いつものように朝食の後、後片づけを率先してから仁宅を出た。大学へ行く陽介を見届け、昼まで家の掃除に徹していた仁は、我ながらまるで主婦のようだと思ったわけだが、両親から生活費と小遣いをもらっている身の上で手は抜けない。大学がはじまれば、どうしても家事が疎かになって陽介頼みになるのは経験済だ。
「すっかり笹丸と仲良くしてんだな、アイツ。笹丸と加納の組み合わせって、今でも信じらんねえよ。高校時代だったらこんな仲良くなってねえだろ」
 吉秋が本の入った手提げ袋を持って笑う。仁も、吉秋の悪友の一人と同居同然になった経緯を、渦中にいながら不思議に思うときがあるほどだ。
「バイト先で再会するとは、オレも思わなかったよ」
「家庭教師だっけ? 続いてんの?」
「うん、双子の高校受験が終わるまでお願いしたいって言われてるんだ。陽介も、教えている子に気に入られているから」
 共に家庭教師として出入りしているアルバイト先の金井家から加納宅まで、電車とバスを乗り継いで一時間近くかかる。一方、笹丸家から金井家は徒歩圏内だ。この距離感は、陽介を笹丸宅に滞在させる直接的な原因となった。
「アイツ、英語だけは本当に得意だからな」
 吉秋も感嘆するようにつぶやく。この点は、仁も素直に同意した。
 陽介は、見た目こそ家庭教師に向きそうにないほど脳天気な雰囲気を持っている。しかし、英語だけは抜群に教えるのが上手だった。大学受験生である頼の英文添削を軽々こなしているほどだ。今通う大学は英語で受かったようなものらしく、本人は英語の教員資格を取るつもりらしい。
「おかげで、毎日のようにうちにいるけど」
「マジ? 邪魔じゃね?」
「それがさ、思ったより迷惑じゃないないから追い出せないんだよ。家事もしてくれるし、妙に気の回るとこもあるから」
 自然体で気が利く陽介は、仁からすれば本当に卑怯な存在だ。陽介に女が切れない理由は、この気遣い上手なところにあるのだろう。しかし、その割に恋人の入れ替わりが激しいことは、仁にとって謎といえる。
「笹丸んとこの親はまだ海外か。でも、あの加納が気配り名人だとは、あんま感じねえんだけど。ただのチャラおバカって感じだろ」
「家と外だ意識が変わるんじゃないか?。……高校のときは、タッちゃんといつもバカやってるイメージだったけどさ」
 仁の言葉に吉秋が、高校んときに一番バカなことしてたのは間違いなく加納だよ、と笑う。当時、陽介が友人たちと騒ぎながら先生に追いかけられていたのを、仁は数度高校で見たことがある。そのやんちゃな印象がどうしても強かったのだ。
「今度、笹丸んちに遊びに行こっかな。チャラ男いじりに」
 頬骨を持ち上げたままで口にする吉秋も、高校時代は背丈を上げる毎に女の子から視線をもらっていたタイプだ。陽介から、吉秋は正直スカした野郎だった、と聞いている。
 だが、それよりも大学に入ってからの陽介の変貌ぶりのほうが、群を抜いて皆の目を引いた。
 仁は高校時代の陽介の風貌を覚えている。彼は高校卒業まで仁より背が低く黒髪で、子どもみたいに全快で笑う少年といった感じだったのだ。
 卒業から一年程度で、彼の雰囲気はがらりと変わった。偶然に再会したときも、仁は茶髪の軟派そうな男があの加納陽介だと気づかなかったくらいだ。
 それでも彼の笑い方は変わらず、中身の変化はあまり見られなかった。大学や別のアルバイト先でも態度はそのままのようで、吉秋たちの反応を見ても、陽介の性格に大きな変化はないようだ。主に変わったのは見てくれだけなのだろう。
 吉秋たちにとっては、高校時代女っ気ゼロだった彼が、プレーボーイ化したというギャップはおもしろいようで、大学生デビュー男と散々ネタにしているらしい。最近ではとうとう仲間内に、『季節ごとに女を取り替える春夏秋冬男』と、命名された。
 名づけられてしまった陽介自身は、モテ期を最大限に有効活用してんだ、羨ましいんだろおまえら、となに食わぬ顔をしているそうだ。それが、バカバカしくも仲間内のムードメーカーとして君臨し続ける理由なのだろう。
 陽介は、アプローチをかけてくる女の子を基本として拒まない。その一方で、別れも相手のほうから告げられ、それも拒まない男だった。
 来る者拒まず、去る者追わず。陽介と恋人関係が保つのは、なぜか最大で一季節が限界なのだ。春夏秋冬男、と呼ばれることが名誉なのか不名誉なのか、色事にあまり興味がない仁にはよくわからない。
「そういや、この話聞いてるか?」
 吉秋が思い出したように、仁を見る。
「なに?」
「お盆のときに、加納たちと居酒屋で飲んだんだけど、」
 また酒にまつわる話だ。吉秋と陽介は、二十歳の誕生日にあたる飲酒解放宣言から、高校時代の悪友と定期的に飲み会を開いている。仁も双方から誘われているが、二十歳の誕生日がまだ来ないことを理由に遠慮している。
 彼らの飲み会は麻雀のパイをぶちまけるほど盛り上がるらしいから、行ったところで介抱役をやる羽目になるのは眼に見えている。遺伝からしても下戸だともわかっているし、参加しないほうが賢明だろう。
「加納、お盆前にまたカノと別れたって」
「え、また?」
 今回も通称にふさわしい展開となったようだ。再会した頃も、陽介は女と別れたばかりだった。今は季節がぼんやり秋に傾きはじめている。夏の女から秋の女に変わる時期だ。
「こりねえよなあ」
「……さすが春夏秋冬男の異名を持つだけある」
「でも、今回はちょっと違うんだぜ」
 吉秋が口元を上げる。その様子に仁は首を傾けた。
「どう違うんだよ」
「アイツ、今回は自分から振ったらしい。それはたぶん、初じゃねえかな」
 彼の話に、仁は瞬きをした。吉秋の表情が、いつもよりおもしろそうに瞳を光らせるのもわかる。
 陽介は、今まで自分から一度も女を振ったことがなかったのだ。
 それは陽介自身が周囲に公言していることであり、周知の事実だ。『振るより、振られるように仕向けたほうが気楽なんだもん』という言葉も直接本人から聞いている。そこに人情的理由があろうがなかろうが、その信念は今まで破ったことがなかったはずだ。
 ……陽介、どういう心境の変化なんだろう?
 そう思うと同時に、お盆明けから陽介が仁宅に居着いている理由を悟る。彼女がいるときの陽介は、恋人と会う時間を優先する。軽そうに見えて恋人は大切にする類の男だ。
 今は恋人に使っていた時間も、仁のところへ加味されているのだろう。
「だから、やたらうちにいるわけか、」
「だな。あの加納が、女を振るってのは今までなかったはずだけど、なんかあったのかな。アイツにもまともに好きなやつでもできたとか」
「……どうだろ。陽介からそんなこと聞いてないし、そんな様子も一切ないけど、」
 着信音が響いた。仁は吉秋に断りを入れて、ポケットからスマートフォンを取り出す。良いタイミングで陽介からだ。
「仁! どこにいんの?」
「陽介こそどこにいるんだよ?」
 仁の第一声で、吉秋も相手がわかったようだ。
「いま仁の家着いたんだけど。家にいねえの? マジどこにいんの? ハーランドがかまってほしいみたいで、今からちょっと散歩してくるけど、それまでに家帰って来れるとこにいる?」
 ハキハキとまくし立てる問いに、仁が受話器を少し離す。
 声が大きいのだ。いつもより少し不安そうな口調なのは、陽介が仁宅の鍵を持っていないせいだった。仁と頼が在宅でなければ、陽介は閉め出された犬と同じ状況になる。
「ああ、最寄り駅。吉秋も一緒にいるよ」
「ええ、マジ、俺もいまさっき電車使って帰ってきたばっかりなんだけど! おまえら、どこにいた? 吉秋もいるんなら、三人で軽く酒ひっかけられたじゃん!」
 元気な発案を、仁はすぐさま一蹴した。
「いやいい、それは今度で。今日は大人しくハーランドと散歩してろよ。その間に戻るから」
「えー。あ、そうだ。散歩ついでに、駅まで仁を迎えに行けばいいんじゃね? 仁、俺が行くまで待ってて!」
 こっちのほうが名案だ、と言わんばかりの陽介に、隣の吉秋が笑っている。
「あんなやかましいのとよく一緒にいられるよな」
 手早く電話を切った仁に言われて、大きく肩をすくめた。




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