* 水曜日【第22話】 *


「浅宮! おーい」
 よく知る声は朝思い出したメンツの一人で、夏紀はすぐに振り返った。同じクラスの友人である守屋だ。近所に住んでいるからいずれ会うと思ったが、今日会うとは思わなかった。
「守屋、久しぶりだな」
 日差しのあるところから、改札口のある日陰に戻る。守屋も夏紀のそばに駆け寄った。重そうなバッグを持っているところを見てから、図書館? と訊けば、残念ながらこれから夏期講習、と答えられる。
「授業は七時からで、その前にちょっと自習室かどっかに籠もるつもりなのだけどさ」
「大変だな」
「え、いやいや浅宮さん、あなたも同じ受験生ですからね!」
 相変わらずだなあ、と、守屋にあっけらかんと笑われる。その様子に夏紀は不思議と安心した。則之にもたらされるものとは違う質の安心感だ。相変わらず、と言うからには、夏紀は全然変わっていないように見えるらしい。
「そっちは夏休みどうよ? 宿題終わった?」
「まだ少し残っているよ。守屋は?」
「そんなの、オレはじゃんじゃん残っているよ。なんで受験と関係ない科目の宿題もしなきゃなんないんだっつーの、あそこは鬼か!」
「間に合わなかったら、一教科くらい写させてやるよ」
「わー浅宮、マジ男前、仏様。今日おまえと出会えてよかった。柏木とかにそれ、連絡しとくから」
「……おまえも、マジで相変わらずだな」
 彼と会話をしていると、懐かしく感じていたものがぐんと距離を縮めていく。他に誰か友人に会ったかという話を振られ、夏紀は一人も会っていないと言うと、守屋も同じく誰とも会っていないと返してきた。やはり皆受験勉強で忙しいらしい。予備校で顔の知った栖鳳学園生がいるようだが、その程度だという。一方SNSのやり取りは頻繁であるようだ。
 連絡すら久しぶりに柏木から今朝来たくらいだ、という話から、守屋は今日が夏紀の誕生日だと思い出したらしい。
「おー誕生日おめでとう。とうとう免許が取れるお年頃ですか」
「ああ、そうか。したら、免許取りに行くのもいいな」
「いや待って。あなた、大学受験生。しかもこれ言うの二回目」
 本気でボケたの? と言われ、夏紀はあいまいに笑った。けっこう本気で考えてしまっていた。車の免許が取れたら、則之とドライブができると夢が一瞬で膨らんだのだ。守屋たちといると、展望が高校生らしいものに明るく広がるからいい。
「あのー、夏紀センパイ!」
 女子の高い声がして、夏紀はその方向へ顔を向けた。本来の目的は市川香奈枝と会うことであった。笑顔を見せると香奈枝はホッとした表情でちょこちょこと歩いてきた。横で守屋が、おまえ! またオンナか! 受験生なのに! と言わんばかりの表情をしている。
「もう、色男! お幸せに! オレは一人虚しく予備校行ってくるよッ」
 プンプン憤慨した素振りで守屋が離れていく。ほぼ演技だ。夏紀は笑いながら手を振った。そばに来た香奈枝は夏紀より頭ひとつ分低い。女の子らしい黒のロングストレートで、生成りのふわふわしたワンピースだ。姉の運動部キャプテンらしい快活な雰囲気を正反対にしたようなファッションセンスだった。この手の洋服も、夏紀は嫌いではない。
「あの、大丈夫だったですか?」
 不安そうな瞳だが、利奈と同じように芯のある性格の持ち主だ。この姉妹だからこそ、夏紀は前回まで付き合っていたわけで、今もこうして誘いに乗ったのだ。他にも久しぶりに会えないかと誘う女たちからの通知は着ていたが、やんわり拒否する文章をつくり、コピーアンドペーストして全返信した。余計なことに頭を使いたくない。
「大丈夫だよ。あいつは学校の仲間で、たまたま遭遇しただけだから。どっか、中はいる?」
「はいっ。なんか時間つくってくれてありがとうございます。お誕生日なのに」
「いいよ。昼はまあ暇だったから。夜からは用事あるんだけどね」
「そうだったんですか……あの、いいカフェが近くにあるので、そこ行っていいですか?」
「ああ、どこにあるの?」
「そんな遠くないです。こっちです、センパイ」
 ちょっと一喜一憂する表情はあるが、すごく嬉しそうでキラキラしている。彼女に連れられるまま、行ったことのない方面へ歩いていく。ポツポツと話をしつつ、このキラキラ感は則之にないな、と、しみじみ香奈枝を見て思った。則之は年齢的な面もあるが、どちらかというと、しっとりした色気がある。男のくせに、あの色気はけっこう罪だ。
 香奈枝が立ち止まった店は、カフェというよりケーキ屋に併設する喫茶店だった。アンティークなつくりが女受けしそうな感じである。香奈枝と一緒にメニュー表を眺め、ケーキセットをふたつ頼んだ。
「改めて、夏紀センパイお誕生日おめでとうございます! これ、プレゼントです」
 注文の品が届く前に、香奈枝は意を決したようにそんなことを言って、夏紀に両手くらいの大きさのプレゼントを渡してきた。中を開けてみると、シャープペンシルと革のカバーがついたメモ帳がはいっていた。有名な国産メーカー産で、少し値が張るものだ。使い勝手のいいものをもらって、夏紀は「ありがとう、カナエちゃん」と素直に礼を言った。香奈枝は至極幸せそうな表情をみせた。
 そんな彼女は、ケーキと飲み物が来ると一転して甘いものに目がないという顔をする。近況や受験のことで会話が穏やかにつくられ、香奈枝はあっという間にフルーツ仕立てのケーキを食べた。少し食べ足りなそうな様子だったので、夏紀のガトーショコラを半分あげた。一回目は断ったが、二回目は有り難そうに受け取った。大切にフォークを下ろして食べている。
 夏紀もそうだが、則之は食べ物にあまり頓着がないようだ。二人でいるときは、コンビニエンスストアか宅配してもらうことが多い。朝昼晩ときちんと摂るタイプではないようで、小腹が空いたからなにかをつまむという食べ方をしている。甘いものやスナック菓子が家にあるのを見かけることはなく、酒類も家には置かれていない。性欲に癖があるぶん、食欲は淡白なようだ。
 ふと、彼のことを思いながらコーヒーを飲んでいると、香奈枝のほうから姉の話題が振られた。利奈の近況は元カレとしてそれなりに気になる。利奈の志望大学は、夏紀の滑り止めレベルの私立大学だと香奈枝が教えてくれた。世間的に見れば、かなり上位の大学である。勝気で努力家らしい目標設定だった。別れてからも、夏紀は彼女の仮想目標になっているのかもしれない。
 香奈枝の言い草から、利奈は妹が夏紀と会うことを知っているのだろうと思った。ただ、目の前の香奈枝を見るかぎり、利奈は破局したもうひとつの原因である二股の話を妹に伝えてはいないようだ。利奈は自分を許してくれたのか、それとも本当に妹と夏紀が付き合うことを応援しているのか。
 ケーキ食べ終えた香奈枝が、紅茶を飲んで口許を整えると真剣な瞳で夏紀を見つめた。薄い化粧に長く施された睫毛が揺れる。なにかしら伝えたい事があって呼び出されたのだと、夏紀は一瞬で気づいた。
「夏紀センパイ。あの、突然なんですけど、今日時間つくってもらったのは言いたいこともあって……あの、いいですか?」
 内容が不明なことにお伺いを立てられても困るが一応、「いいよ。言いたいことってなに?」と返した。
「あの、実は、センパイのこと、……好きなんです。おねえちゃんと付き合ってるときから、すごい憧れてて、」
 あ、やっぱりそういう話か。夏紀はあっさりした気分で思った。告白をしているのが恥ずかしくなっているのか、香奈枝はもう赤くなっている。
「あの、なんていうか、恰好いいし頭もいいしやさしいし、ステキなセンパイだって、最初に会ったときに思って……おねえちゃんに嫉妬したっていうのはあんまりなかったんですけど、なんていうか、すごい憧れるカップルみたいで。だから、おねえちゃんが別れた話をしたとき、おねえちゃんよりわたしのほうが泣いちゃったんです。……どっちかっていうと、おねえちゃんが別れたら夏紀センパイともう会えなくなるんだって思っちゃって。ずっとどうしようか考えていたんです。でもやっぱり会って話したくなって、その、こんな感じに……今日は本当にありがとうございます」
 ぐるぐる頭の中で考えながら、言いたいことをなんとか全部言ったような感じだった。その様子は夏紀にとって微笑ましく感じられた。告白という一大事をして、自分を曝け出す。恋愛っていいな、と、思った。自然と笑顔になる。
「こちらこそ、ありがとう」
 純粋な言葉に夏紀は重ねて、今は受験に徹したい時期なんだ、とやんわり答えた。香奈枝はしっかり頷いている。その表情から、告白する前から答えはもうわかっていたのだろうと思う。お付き合いがしたくて告白したのとは少し違う感じだ。でも、夏紀のことが好きなのは瞳を見ればよくわかる。
「いいんです。受験で忙しいのに、こんなふうに付き合ってもらってすいません」
 逆に謝られてしまい、夏紀はすぐにフォローした。
「いや、こういうのだったらいいよ。俺もいい息抜きになったから」
「本当ですか? わたしも、最高の夏休みの一日になりました」
 彼女は夏紀のあいまいな態度に傷ついていないようだった。気持ちを少し解消できたうえに、夏紀のリアクションからなにかしら未来へ希望をつなげたのだろう。
 時刻を見ると、一時間をゆうに過ぎていた。夕食時を迎え、空も色が変わっている。二人は人の出入りが少なくなった喫茶店を離れた。
 夏紀センパイはこの後、どこか行かれるんですか、と訊かれたので「この付近に用があるから」と答えた。香奈枝は電車を使ってやってきたとのことで、駅のほうに戻ると言う。夏紀は改札口まで見送ることにした。
 会えただけでも嬉しかったです。また、余裕ができたら会ってくれますか。歩きながら訊いてくる彼女に、夏紀は軽い感じでオーケーした。不思議と市川姉妹は夏紀にとって退屈な人間ではない。特に香奈枝はどこか利奈にはないふんわりとした軽さがあった。夏紀に妹がいれば、こんな気分になるのかもしれない。
 駅に近づくほど人が増えてくる。香奈枝に話を振られるまま応えていた夏紀は、駅そばの小さなロータリーで人知れずドキリとさせた。タイミング悪く則之を見つけたのだ。正面に向かってくる彼を避けるのは不自然で、香奈枝とともに筋道どおり歩く。
 すぐに則之も気づいたようだ。あっ、という表情をした。盆明けの出勤でも、定時には上がれたらしい。
「この時間って、八月でも混んでるんですね」
 独り言のように話す香奈枝は男二人の微妙な心情の揺れにまったく気づいていない。夏紀は、そうだね、と返しながら視線を則之に当てた。女と歩いているところを見られた不安より、苛立ちが先立っていた。久しぶりに生身の則之を見て、兼次のことが即座に思い浮かんだのだ。則之の視線は夏紀が連れている少女へ当たっている。すぐ女子を同伴していると気づいたようだ。
「則之さん」
 夏紀の呼びかけに、則之と香奈枝が同じような反応を見せた。故意に立ち止まった夏紀を凝視している。則之は躊躇わず目の前に来た。
「……はい」
「後でそっち行きますんで、待っててください」
「ああ、うん」
 二言で夏紀はまた歩き出した。背広の男に用があるのだと香奈枝は理解しただろうが、則之を紹介する気も、これからどんな用があるのか話すつもりもなかった。香奈枝も社会人には興味がないらしく、女の子らしい表情で夏紀の顔を見上げた。別れる手前の改札口で、彼女から「なんか、久しぶりにセンパイと会ってますます好きになっちゃいました」と今日の感想を伝えられる。それに男としての自信はつくが、好きなひとに「好き」と言われていない寂しさも呼び起こした。
 香奈枝を見送り、小走りで則之の家へ向かう。志村家の玄関ドアは施錠がかかっていなかった。則之に受け入れられているのかをはかる一段階目がいつもどおりクリアされて、ホッとしながら夏紀は家へ入った。靴を脱いで廊下を歩く。リビングには灯りがつき、エアコンがかかっている。
 ソファーには、背広を着た則之が座っていた。シャツ姿でネクタイは解いているが、リラックスムードではない。
 彼が顔を上げて夏紀を見る。夏紀には、口論になろうがかまわずはじめに話したいことがあった。兼次に会って、腹立たしい仕打ちを受けたことを伝えたかったのだ。しかし、先に則之のほうが口を開いていた。
「連れてた子、……仲良さそうだったね」
 あの子は誰? という言葉を無理に言い換えたような言い草で、夏紀をじっと見る。元カノの妹です、と、素直に返しそうになって、開きかけた口をつぐむ。すると、則之はなにかを悟ったような顔をした。
「やっぱり、女の子と付き合ったほうがいいと思う」
 すっかり見当違いのことを話しはじめる。則之の機嫌が少し悪いことに気づいた。
「夏紀の隣には、あのくらい同世代のかわいらしい女の子が似合うよ」
 しかし、勝手な言い草に夏紀はイライラが増した。駅前で則之と会った時点から兼次のことでフツフツと怒りが込み上げていたのだ。ようやく帰省中のことを話せると思った矢先に、好きなひとからこの仕打ちだ。ありえないことを彼はもっともらしく、しかも気分を損ねたように喋っている。
「お互い夏休みか。いいな、楽しそうで。僕のときはそんな女子との触れ合いなんてなかったな。夏紀はイケメンだから、もてるんだろうね。僕と違って、羨ましいよ」
「なに勝手なこと言ってるんですか?」
 則之の勝手な憶測と過去話に、夏紀は怒鳴りたい気持ちを抑えながら丁重に訊き返した。しかし、返答してもらう気は毛頭ない。畳みかけた。
「あんたはバカなのか? あれは元カノの妹で、今日は俺の誕生日だから会いたいって言われてプレゼントを貰っただけだ」  語尾を張り上げなかったぶん、貰い物を則之の腕にぶつける。香奈枝のプレゼントは呆気なくリビングの床に落ちた。理性的に答えたつもりだが、余計なことをぶちまけていた。
「元カノの妹? ……誕生日?」
 則之はそう言いながら転がったプレゼントを眺め、ハッとしたように夏紀を見た。
「今日、誕生日なのか?」
 照準はそこに定まったらしい。
「そうだよッ!」
 自分の誕生日なのに、こんな朝からイライラした気分にさせられるのは、すべて則之のせいだった。そう思うと、留めようとしていたものが溢れてくる。
「こんな、なんで自分の誕生日まで、どうでもいいことをあんたにぐちゃぐちゃ言われなきゃならないんだよ! ようやく会えると思ってたのに! あんたがいない間、なにが起きたか知ってんのか? 兼次とかいうふざけた男から電話があって、俺がどんな思いをしたか! どうせあんたはまだあの女とも別れてないんだろ! それで、なんの関係もない後輩と会ったことを咎める資格なんてないよな? あんた何様なんだよ!」
 論破するように吠える。どういう想いで自分が則之の前に立っているのか、それをなぜわかってくれないのか。なぜ大好きなひとにこんなふざけたことを言われなければならないのか。さらに畳みかけようとすれば、則之が申し訳ないような表情で立ち上がった。
「ごめん。迂闊なことを言った」
 はっきり謝られると逆に不安が生まれた。これ以上傷つきたくなくて、夏紀は口を閉ざす。リビングは変な沈黙に包まれた。エアコンが無機質に唸っている。
「ケーキ、買いに行こうか」
 突然、則之が場にそぐわない明るい調子で、そう言い出した。突拍子のなさに夏紀は、は? と、問いかけそうになる。彼は有無を言わさない様子で、鞄から財布を取り出して玄関へ向かいはじめた。夏紀は仕方なくその後ろを追った。
「うちの鍵、持ってる?」
「……持ってるよ」
「じゃ、掛けてくれる? ケーキ屋かあ、駅の反対側にあったような」
 腕時計を見て、一般的な営業時間を算段したのだろう。ケーキ屋といえば、先刻香奈枝といたところを思い出す。あそこのケーキはまずくなかった。一度しか行ったことのない場所だが、今なら道を覚えている。
「さっき行ったところなら、ケーキありましたけど」
 今さっきの怒りを相殺するように親切心で伝えたが、則之は「そこにしよう」とは言わなかった。「いや、駅の反対側にあったはずだから、そっちに行こう」と言ってきかない。
 営業時間を気にする成人男性の歩行速度で、二人は人の多い駅前に戻った。帰宅の途に着く人々の間を縫って反対口に向かい、則之の言ったとおりケーキ屋を見つける。則之が言うには、自身が高校のときからあるわりに古い店らしい。店内は営業終了前でケーキ数は少なかったが、ホールケーキがひとつ残っていた。
 季節に不釣合いなイチゴのショートケーキは、二人分にも不釣合いな大きさで贅沢な金額だった。しかし、則之はその6号のホールケーキを迷わず選んで万札を出した。夏紀は黙ったまま、てきぱきと包装されていくケーキを見つめる。これが自分の誕生日プレゼントか、と思うより、則之がなにを考えているのかがわからない。彼はそんなに甘党だったか。夏紀はあまり洋菓子が好きではないし、さっき注文したケーキも香奈枝に半分くれてやったくらいだ。食べきれるわけがない。
 寄り道せずに帰宅した則之は、早速ケーキを箱から取り出した。しかし、その置かれた場所がまた突拍子のないところだった。
 プレイルームのベッドの上である。
「夏紀、ここ座って」
 ベッドの端に腰をかけた則之が、ポンポンとシーツを叩いた。夏紀は狐に包まれた様子で促されるまま彼の隣に座る。則之の横に置かれたケーキよりも、彼がボタンを外す指のほうが気になった。
「僕は特別なことができないから、こういうので、」
 そう言いながら、則之は留めていたボタンを全部外してシャツを脱ぐ。インナーも躊躇わず脱ぎ捨てて、彼は上半身裸になった。それは約一週間ぶりの素肌だった。薄い色素の乳首が浮いている。
 ……つまり、ホールケーキがプレゼントではなく、ケーキを使ったプレイがプレゼントということか。
 まさかそうくるか、とも思うし、さすが変態の発想、とも思った。急なプレゼントに夏紀はどう手をつけようか考えてしまう。その一瞬の間に、則之はそばのケーキからひょいとイチゴを一粒つまんで、夏紀の前にかざした。
「誕生日、おめでとう」
 くちびるに触れたイチゴは生クリームがついて甘いにおいがした。夏紀は吸い寄せられるように彼の手首をつかみ、赤い果実を口に入れた。頬張るイチゴを咀嚼している間に則之がくちびるへ指をあててくる。飲み込んだ後、その指を舐めた。
「もっと食べたい」
 そう言うと、則之はホッとしたように離された手で、もう一粒イチゴをつまんだ。先端に生クリームをつけて、夏紀の口許に近づける。実際にイチゴは酸味が効いていて、白い生クリームとあわせれば瑞々しく口内に広がった。スポンジ部分に興味はないが、新鮮な果物は身体に染みて美味しい。
「このイチゴうまい?」
 三粒目を夏紀に与えて、則之もケーキが気になったようだ。夏紀が服を脱ぎはじめたのをいいことに、彼も一粒イチゴを取って食べた。酸っぱさが舌に効いたのか生クリームをすくって味覚を追加する。顔には、酸っぱいのは生クリームとあう、と描かれてあった。
 脱いだ服をドアの端に投げた夏紀は、彼の口許に近づいた。
 もう一度生クリームを口にふくんだのを見てから、くちびるを重ね舌を差し込む。則之は喉を動かして受け入れた。





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