* 掌のひかり【第10話】 *


 荒い息がゆっくりした深呼吸に変わる。三池が動けば、服とタオルが折り重なった床に横たわる合澤は視線を向ける。快楽が溶け込んだ表情だ。吸われた肌も乳首も紅く熟れ、体液に濡れている。その色気にまた手を伸ばす。合澤は触れてくる男に目を細める。
 三池は合澤を抱くようになった。何度も身体をつなげて確認した。身体の相性は今までの経験で最もいい。アブノーマルなセックスだったから、そう感じたのかもしれないが、……相手が合澤だから、というのが一番だ。
 今夜もアルバイトから帰ってきた彼を、早々に味わった。いつも誘うのは三池だが、合澤の物欲しそうな表情に毎度感情が乱される。挿入するたびに満たされたように名を呼び、喘ぐ彼を見るとひどく満足できた。
 平常時の合澤はセックスの件を雑談に一切絡めることはしないが、三池の身体を好いているのは明らかだ。三池の誘われるまま当たり前のように身体を開き、求められるだけ奉仕することにも躊躇いがない。回を追うごとに従順さを深める合澤の内壁に、三池は思いのまま種をまいていた。自分にすがって腰を揺らす彼がかわいくて欲しい。セックスするほど想いは募っていく。
 大学では変調のない生活が続き、講義に必要なレポートや発表も合澤に手伝ってもらいながらどうにか終えられた。忙しさと合澤との愛欲に身体を埋めて、あっという間に日々は過ぎ、あと数日で冬期休暇だ。来月からは本格的に試験もはじまる。二回生では単位習得のために講義を詰めていた二人も、来年度からより専門的な分野に進む。元々後期がはじまる時点で、三回生の時間割を意識していたわけだから、予定どおりになれば三年前期は大学に行かなくていい曜日が土日以外にできるはずだ。
 クリスマスと新年に向けて浮き足立つ世間に、周囲の友人たちも足並みを揃えているが、三池にはあまり関係のないことのように思えた。自宅にいる家族もクリスマスや新年を祝う余裕はなく、妹の難関校受験のラストスパートで一日一日が惜しいようだし、合澤も故郷に置いた家族の状況に好転の兆しはない。彼からは、せめて元旦くらいは家族揃って迎えたいということで、大晦日から二日まで父親が病院を離れる許可が出たという話は聞いた。大晦日の早朝に帰省して、二日の最終便でこちらに戻るという。そう話す彼は少し嬉しそうな表情を見せ、そのかわいさに指を手繰り寄せてつなげた。
 三池のどんな素振りにも、合澤は服を脱いでくれる。電気をつけたままでも嫌がらない。男の裸体でも、三池は素直に反応できた。
「……あ、ッ、あ、ン、みい、ッ」
 焦らされる身体に耐え切れず、紅潮させた顔で腰を動かす合澤の髪を掻き上げる。快楽に溶けた彼はあまりに従順で、つい言葉を引き出したくなる。三池も甘い身体に溺れていた。
「合澤、いい?」
「ンッ、いい、い、」
「どんなふうに?」
「え、……う、ッ、ん、ん、」
 ビクビクと震える身体が、きゅうきゅうと意図的に締めはじめる。言葉を使わず三池に内部から教える合澤のやり方に、二回目の余裕はすぐ飛ぶ。 
 合澤はなんとなくセックスがうまいような気がしている。もちろん、彼が股を開く側になるときしか知らないが、受け入れるのがとても上手だ。……ただ、床上手になった経緯について考えることを三池はすっかりやめていた。
「おま、え、」
 持っていかれそうになる感覚に、彼の膝裏をつかんで押し、きつく埋めなおした。強く抜き差しをはじめると、一度目に詰めた体液がぐじゅぐじゅと音を立てた。
「い、……あッ、んッ、み、い、ッ、あッ、あッ、」
 翻弄するはずが翻弄されているような感覚で彼の中に精液を注ぎ、ヒクヒクと震える穴から己を抜いた。
 二度続けて三池を受け入れ、ぐったりした合澤の肌を撫でる。冬なのに暑い。身体中がべたべただ。行き場を伝えた三池は、合澤が頷くのを見てから立ち上がった。
 セックスは三池が風呂に向かうと終了する。早々とシャワーを浴びて合澤にバトンタッチするのだ。この方式は自然と決まっていて、合澤が身体を洗って戻ってくると眠りにつく。三池の寒さ嫌いからひとつの蒲団で一緒に寝ることが習慣になった。その分、彼の起床時間は早くなったようで、朝から寝ている三池を放ってなにかしている。三池が風呂を占拠している間も、合澤は疲労をおして細々と動く。
 湯で身体を流して、タオルで拭くとユニットバスの扉を開ける。そして冬のにじむ空気に息をついた。下着姿から部屋着を身につけて合澤のところへ行くと、案の定脱ぎ散らかしていた服が隅に避けられていた。合澤は長袖シャツを一枚羽織って座り込んでいる。床に敷いていたバスタオルを下半身にかけ、三池の次に身体を洗いに行くつもりだろう。しかし、戻ってきた三池に反応せず視線が俯きがちに固まっていた。
 また、なにか様子がおかしい。
 そう思いながらベッドに腰をかけて、三池はそばの合澤を見下ろす。とりあえず声をかけずに肩にかけたタオルで髪を拭く。時々彼のこうした状態を目にしているから、今回も特別不審には思わなかった。大抵家族から連絡があったときや考えごとの深みにはまったときに、合澤は今の硬直状態になるのだ。
 三池が視線をずらすと、床に携帯電話が置かれていた。記憶が正しければ、先刻までこたつの上にあったはずだ。なにか連絡があったのかもしれない。視線を感じて首を動かす。
 合澤が見上げていた。
「次、入れるぜ」
 その言葉に彼は答えず、静かにベッドへ腰掛ける三池へ身を寄せた。バスタオルが皮膚から滑り落ちて扇情的な姿があらわれる。シャツにボタンをかけず、裸体に点在する愛の形跡を三池に見せつける。落ち着いていた気持ちがまた上昇してくるものの、黙って彼の行動を見ていた。三池の腿に合澤の手が置かれる。なにをしようとしているのか、これですぐにわかった。
 指が三池の性器を探している。
 思いがけない行動だったが、三池は野放しにして見下ろしていた。瞬く間に曝け出された己に、合澤は躊躇いなく咥え込む。芯が硬くなるのは容易だ。彼がフェラチオをはじめると、三池は動けなくなる。本当に上手だし、一所懸命な顔がたまらなくて見つめてしまう。
 合澤の身体を我がもののように抱きはじめてから、そこまで日は経ってはいない。彼の性的な艶やかさの底はまだ知れず、快楽を求める痴態は三池が愛されている証拠でもあった。下半身に集中して動く頭を撫でて訊いた。
「足んねえか?」
 口に含んだまま、彼が頷いた。顎を引いて先端を吸う。緩く伏せられた目蓋に刺激を与える指、かたちをなぞる舌で三池のものは大きくなる。現れる選択肢に、三池は迷わず決めた。
「な、あ、またやるんなら、中にしたい」
 その言葉に合澤の視線が持ち上がる。
「……ん、なか、」
「も、ベッドでやるか?」
「した、のほうが」
「わかった」
 十二分に勃起されたものからくちびるを離した彼にあわせ、三池はベッドを降りて軽くあぐらをかく。膝立ちになって跨がる合澤の胴に手を回し、背をなぞりながら咥えてくれる穴に指を入れた。
 前の精液でまだ内部は濡れている。わざと音を立てながら出し入れすると、首に腕を回す合澤が密着する。半勃ちの性器が皮膚に当たった。
「ッ、……みい、け、いれ、」
「いいぜ。ほら、腰支えてっから」
「う、ん。……あ、……ッ、ん、……ん、あ」
 早急な欲しがり方が愛と欲を生む。身体をいっぱいに拡げてまた彼がおさまると、三池もたまらず腰を揺すり上げた。
「ぅ、ん、ッあ、……ッ、あッ」
 震える合澤の中を何度もやさしく突く。滑りよく擦れて、彼の皮膚がまた熱くなる。三池は腰を揺らしながらすがる彼の体臭を嗅ぎたくなって、震える首筋に鼻を突っ込み、耳の裏を舐め上げた。薄い彼の汗の味がする。抱きしめて、もっと舌を這わす。
「ん、……みい、け」
 動きを止めて舐めはじめた三池に、合澤は緩く腕をほどいた。その表情を見なくてもわかる。たぶん嬉しそうな顔をしているだろう。合澤は、その部分を舐められたりくちづけられたりするのが好きなのだ。そう数度目の情交で気づいた。それは性感帯と少し違う。
 顔が見たくなって、うなじから舌を引いた。やっぱりすごく嬉しそうだ。
「なあ、合澤」
「う、ん、」
「ここ、好きなんだろ?」
 耳とその裏を指で撫でながら訊く。頬を薄い紅で染めた彼は、嬉しげな表情から瞬時に照れたような困ったような表情に面を変えた。三池を深く咥えている部分が収縮する。答えない彼の首筋に触れ、後頭部をあやすように撫でる。合澤の腰が揺れた。三池の身体を支えにして、貫かれている部分が擦れるようにゆっくり身体を動かしていく。
「ンッ……あ、……ぅん、」
 欲しいものを無言で訴える姿は扇情的で、三池は上に乗る彼を見つめる。合澤が薄いくちびるを開いた。
「み、いけ、」
 名前を呼ばれたから、腰をつかむ。
「ん?」
「こ、れ、すき?」
 動きながら訊かれて、たまらず彼の腰を強く自分のほうへ押し付けた。途端に大きく合澤の肢体がわななく。
 好きじゃなければ、こんなことはしない。
 それを言葉ではなく行為で示したかった。律動を再開させた三池に、受け入れている男の身体がヒクヒクと震えて止まらなくなる。
「ひ、あッ、も、みい、ッ、みいッ、」
 性器を強く食まれた衝動で、三池は力任せに体勢を変えて彼を押し倒した。カーペットが敷いてあっても、シャツを着ていても合澤の背は押し付けられる負荷ですれる。しかし、三池は少し痛いほうが彼の反応もいいと知っていた。身体を曲げ拡げ、犯すように突っ込んで腰を動かせた。
「ッあ、ア、ッ、あ! ッ、く、あ……んッッ!」
 ぴっちりと埋められた肉に、精液が押し込まれる。合澤が涙を落として重い律動を受け止めた。ずるりと己を引き出せば、彼の口許が薄く開く。 
 呼吸を整えている合澤にかまわず、三池は人差し指で紅いくちびるを撫でる。指を入れると熱い舌が当たった。
「合澤、もっとやるか?」
「あ、……う、ん、」
 指を舐めながら彼は頷く。もっと明確に欲しがる声を三池は求めた。
「ほら、ちゃんと言えよ」
 とろんとした大きな瞳に、男の姿が映る。恥じることを忘れたように、合澤は喉を鳴らした。
「ん、もっと、いれて」
 その言葉に満足して、三池の手が太股にかけられる。
 合澤が快楽に従順なのは、回数をこなすことでよくわかった。奉仕するのも厭わない。セックス以外でも懸命にあわせようとするところもかわいらしい。
 ただ少し、今は瞳に虚ろな影があった。本当はしまいになるはずだった情交を、フェラチオで改めたのは合澤だ。彼が意図的に三池の身体を求めているのは、三池もなんとなくわかった。絶対に風呂に入っている間になにかがあったのだ。
 それはあとで訊けばいい。
 合澤の熟れた乳首を甘噛みしながら、三池はこのことを一時忘れることにした。彼がすすり泣くまでしつこく身体をつなげ、体力の限りを尽せば記憶はいつの間にか途切れていた。
 朝になって律儀に起こしてくれた合澤も、無理やり引き延ばした長丁場のセックスに疲労感が抜けないのか、起き上がるのが辛いと言って三池に謝ってきた。その謝罪はすぐ制した。三池は逆に快調そのものなのだ。
 下半身に力が入らない彼に、自分の体調を心配しろと諌め、今日の講義をどうするのか尋ねた。彼は、レポート提出があるから追って大学に行くと話し、三池はその言葉を信じて一足先に部屋を離れた。
 曇り空で寒い朝だった。道中ではずっと彼のことを考えていた。




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