* 手の中のひかり【続き01,春のふたり】 *


 講義の後に待ち合わせて、宅飲み用の材料をスーパーで買い込む。食品選びはいつも一緒にいる合澤の役目だ。ゴールデンウイークもとうに過ぎ、これから暑くなる季節。鍋をするのも今夜までくらいだろう。
「水餃子をメインにするけど、つくねとかも入れる?」
「入れる。〆はうどんに卵を入れるやつ」
「なら、冷凍のうどんも買わないと。これだけじゃ足りないかなあ」
「足りなかったら菓子食えばいいんじゃね。最悪コンビニ行けばいいだろ」
 かごを持つ合澤は気にしすぎな性分だ。三池がかまわず気楽な返答をすると、悩みから解放されたように目をあわせてきた。
「それも、そうだね」
 柔らかな微笑み。愛しい衝動が沸き起こるけれど、ここでは我慢するしかない。
 一刻も早く家に帰りたい。家、といっても合澤のアパートのことである。
 三池は、彼を恋人にしてからというもの、自宅同然のごとく毎日行き来していて、本来の自宅に帰るのは週に数度程度。この間母親に『定期代がもったいない』『入り浸ってる友達のおうちの家賃折半してあげなさい』と、くどくど言われてしまった。
 ……でも、まだ合澤は夜一人で寝られないっていうし。お金を渡しても俺分はまた貯金して返しかねねーし。しょうがねえじゃん。
 さくさくと鍋の材料を選んでいる彼の後姿を眺めながら、三池はこっそり息をつく。それでも、少しずつ新たな未来をようやく描けるようになったのだ。
 去年からついこの間まで合澤と大変な日々を乗り越えてきた。合澤がやむを得ず足を突っ込んでしまった水商売的な仕事から完全に手を洗ってもらうのに少々面倒事が発生したし、合澤の父親が移植手術をすることになった件で彼の春休みはほとんど潰れてしまった。三池も毎度へこたれそうになる合澤を必死になってサポートした。父親の手術の件では、心配しすぎて夜行バスに乗って、彼がいる実家まで行ってしまったくらいだ。実家で会った合澤には大泣きされて抱きつかれ、彼の家族にはカミングアウトこそしなかったが、『俺が晴巳を守る』と宣言してしまったのだから、男としてその約束は果たすつもりだ。
 ようやく彼の実家も落ち着いてきて、合澤も浮き沈みが少なくなり一安心している。合澤の心配性な面と頑固な短所はもう受け入れている。彼が不安になっているときはなるべく明るい方向に話をもっていくし、彼が受け取りたがらない家賃折半分は、少し上乗せして密かに貯金している。三池も我ながら成長したと実感しているこの頃だ。
 実際、大学生活も折り返し地点に来た。都内に就職することができそう、と言っていたのだから、このまま二人でやっていけるだろう。卒業して合澤の合意さえ得れれば、大きな部屋に引っ越して一緒に住みたいと切に願っている。
 ……狭い部屋も、何かと理由をつけてスキンシップできるって利点もあるけどな。
「ミイ、プリン切らしてるから買っとく?」
 振り返った彼の片手には三連パックのプリン。自分の好きなものはすべて把握している合澤らしい問い掛けだ。頷いて隣に立った三池も、冷蔵棚から白桃ゼリーを三つ手に取って彼のかごに置いた。
「俺のばっかじゃなくて、おまえもちゃん好物入れとけよ。これ、好きだろ」
 人を優先する癖がついている合澤を見越して言ったのだが、合澤は少しびっくりした顔だ。その後すぐ、嬉しそうな照れたような表情になった。
「ありがと。……ミイちゃんって、マジそういうの上手だよね」
 元々好みの顔である彼から上目遣いをされて、ドキッとする。しかし、言葉は妙だ。
「上手ってなんだよ?」
「なんか、そういう、……後で言う」
「じゃあ、家帰ったら聞く」
 もごもごと返されたのに応えて、合澤が頷く。食費は残りの友人二人が合流してから折半だ。はじめに合澤が支払うと彼自身が決めてしまったから、大人しくレジに向かう様子を眺めた。
 ……上手の意味を聞くついでに、触りたいなあ。
 単純に身体を繋げたい想いがむくむくと溢れてくるが、あと二時間もせず友人たちが来てしまう。
 イチャつける時間は少ないと気づいた三池は、慌てて時間短縮を考えて、会計を済ませる合澤の元へ回り込んだ。彼の代わりに精算済みのかごを持って袋詰めする。突然手伝いはじめた三池に合澤は不思議な顔をしたが、帰宅してすぐに気づいたようだ。
 キッチンに買った品を片したところで三池に正面から抱き締められた合澤は、困ったようにかすかに俯いた。
「これから、野菜切ったり準備するんだけど」
「俺も手伝うから」
「でも、久しぶりにあいつらとここで飲みなんだし……マズイよ」
 そう言われても彼と密着したせいで、軽く勃ったものはさらに硬くなる。
 一回り細い合澤の身体。普段は照れ屋で真面目なところがあるけれど、セックスになると積極的で快楽に弱いことはよく知っている。
「晴巳」
 下の名前を呼びながら耳の裏を人差し指で撫でれば、ピクッと彼が反応した。大学構内では相変わらず合澤と呼んでいるが、二人きりのときは晴巳とかハルとかハルちゃんと呼んでいる。そちらのほうがセックスの感度もいい。
 黙って視線をあわせない合澤だが、恋人の体温にあわせて性感帯を撫でられて我慢できないはずはない。昨日も一昨日も身体を結んでいたところで、ふたつの心と身体がフィットする稀有な多幸感に飽きはこないものなのだ。
 合澤が子どものように三池の服の袖を掴んだ。
「でも、やっぱり、マズイと思う」
 無言の対話に返答して顔を上げる。迷っている瞳が、最終的には三池が決めたことに従うと伝えていた。堪えきれず、くちづける。合澤は逃げることなく受け止めた。
「……少し、だけだよ」
 小さな合図で、手を引き彼をベッドに上がらせた。シャツのボタンを外すまで待てず、デニムパンツと下着を脱がす。従順に脚を広げた彼の中心もすでに芯を持ちはじめていた。合澤のかわいい部分を指で撫でると、ボタンを外す指が簡単に震えた。
「待っ、ミイ、」
「こんなん見たら待てねえ」
 そばにある昨夜も使った潤滑剤を下肢に垂らして塗りこめる。くちゅくちゅと卑猥な水音とともに、三池を受け入れる窄まりもほぐれていく。合澤は快感に期待する顔を隠さず吐息をもらしていた。
「っん、……ぅ、ん、あっ、……んぁ、あ、」
 どうにかボタンを外し、自分の手を胸に重ねてもぞもぞさせている。服を全部脱ぎたい仕草だとわかって、濡れた手を抜くと合澤の脱衣を手伝った。ついで、自分の服も脱ぐ。
 下肢に両手を戻すと、少し困った表情の彼と目があった。ほんのり紅潮させて物言いたげだ。彼を見つめながら勃ったものと受け入れ口を愛撫していく。
「ぁん、っん、あ、……っん、ん」
 合澤の指がもどかしそうに胸へまた向かう。ふと、三池も気づいて性器から手を離した。彼の指をどかせて乳輪周りをくるくるとさすった。ビクンッと鋭く肢体がわななく。
 彼の乳首も性感帯だ。触ってほしいのだろう。
「ここ、むず痒い?」
 両手の指で、かわいらしく尖りだした回りを何度もなぞる。ゾクッゾクッと肌を揺らしながら合澤が肯定する。
「あ、ん、先、さわって」
 尖った乳首を強くこね潰してほしいのだろう。その部分をわざとツンツン触れてみる。弾力がついておいしそうだ。
「も、っと、あ、こう、」
 快楽に弱い合澤は、たまらず片方の乳首を自身の人差し指ですり潰した。小さな自慰行為を見届け、三池は思う様身体を屈める。
 残った乳首に顔を近づけくちづけ、勢いよく吸い上げる。その途端、電流が走ったように合澤が仰け反った。
「あ、あ、ぁん!」
 指で乳首を潰すより、舌で舐められ強く吸い上げられるほうが好きなことは知っている。
 彼が望むとおりに何度も乳首を愛撫して、ほてった身体に躊躇いなく挿入した。上と下の性感帯をさすられ、先刻までの躊躇いが嘘のように快感に従う合澤は、とろけたような笑みをみせた。
「は、あっ、あっ、あっ、ミイっ、あっ」
 痺れるような快感は三池だって同じだ。幸せそうな恋人の表情。繋がった身体の充足感。ずっとこのときが続けばいいと思う。
 けれど現実は、これから一時間後くらいにこの部屋で飲み会だ。二人の世界に没頭している場合ではない。合澤に快楽疲れをさせる前に、ほどよく射精を促す。従順な彼はヒクヒクと吐き出して、腹と胸に撒いた。緊張が解けた下肢から己を引き抜いて、三池は枕を掴む。
 一気に絶頂まで持ち込むための準備。合澤の薄い腰を自分のところへ引き寄せて枕を差し込んだ。
 落ち着いた彼の視線を拾う。
「苦しくねえ? このあとがあるから、しんどかったら言えよ」
「ん、んん、だい、じょうぶ。はやく、きて、ミイ、ほしい」
「やるよ、全部」
 彼の頭を撫でてくちづけつつ、改めて挿入する。ゆっくり動き出した。
「っあ、い、いま、み、たいな、の」
 気持ちよさそうに彼が吐息をはさむ。
「ふ、んっ、や、さしく、するの、」
「やさしく動いたほうがいいのか?」
 意外な言葉に三池の腰も止まる。すると、それは違うといわんばかりに合澤が首を振った。
「ミイの、はげしいの、すき」
 同時に彼の内壁がきゅうっと三池の雄を締め付けた。プチン、と頭の中の何かが切れた音がする。自分で気づくより早く、合澤の身体を両手で固定していた。熱い奥に精を強く打ち付ける。
「ああっ、あ、ン! あっ、ミイっ、」
「晴巳、ハル、ハル、」
「やっ、あっ、い、ぁあ、あっ、」
 乳首を親指で潰しながら下の口に自分の欲を頬張ばらせる。一度射精した合澤の秘奥は、熟れた色で三池の精を受け入れる歓喜にふるえていた。
「あっ、あっ、ミイっ、ミイっ、あ、ぁん! あ!」
「なんで、おまえ、こんな、かわいいん、だよっ」
 守っているようで、彼にぎゅっと包まれているような感覚。合澤は涙をためて、健気に内部に精を吐かれることを待っている。
「あっ、あんっ、あんっ、……ぁああ!」
 開かれた脚の間へ吸い込まれるように深く数度穿ち、白濁を合澤に撒いた。中に出すと大変なのはわかってているが、セックスをするときは中に出さなければ三池だけでなく合澤も満足できないのだ。男の精を飲み干すように強く締めてくる内壁が名残惜しく、ひと時だけそのままの状態で彼を抱き締めた。
 後処理の最中、すっかり忘れていた『上手』の意味について聞いてみた。
「ミイのこと、もっともっと好きになる、って意味だよ」
 合澤は上目遣いで、恥ずかしそうにそう答えた。


  *   *   *   *   *


 尿意で目が覚めて、ここが合澤の部屋だったと気づく。柳瀬は昨夜から家飲みで滞在していることを思い出した。
 ……今何時だ? 七時か。
 スマートフォンで時刻を確認し、長身の身体をゆっくり起こす。とりあえずトイレに向かって用を足せば、眠気がだいぶ冴えてきた。今日は二限目から皆それぞれ授業があるというが、起床時刻とするにはまだ早い。
 ……合澤の家から大学まで、十五分くらいだしな。
 もう一寝入りするか、と思いながら部屋に戻る。住んでいる合澤には申し訳ないが、男四人でいるにはギリギリの広さだ。床に布団を敷いて柳瀬ともう一人の友人である村尾は雑魚寝。家主の合澤はベッドで眠っているが、当然のように同じベッドで寝るもう一人の友人に目を細めた。
 ……本当に三池も合澤のベッドで寝ているんだな。というか、すごいな。
 すごい、と言わしめたのは、シングルベッドに男二人が器用に寝ていたからではない。三池一人が枕を使っていて、合澤は寄り添うように三池の腕枕で寝ているからだ。
 三池が合澤の家を我が物顔で使うようになって一年。この前も構内のカフェテリアでも散々『合澤のヒモか』『一生女ができねえぞ』と突っ込まれていたが、当の三池はまったく気にもしていなかった。それどころか合澤のベッドで寝ていることも暴露していた野郎だが、実物を眼にすると異様だ。しかも、二人はひとつの掛け布団でお互いフィットするように向き合って幸せそうに寝ている。合澤も三池が入り浸ることをむしろ歓迎しているようで、『ミイちゃん、夕飯なに食べたい?』なんて言っていたのだ。
 ……これじゃ、まるでカップルだな。沼田の言ってたことは嘘じゃないかもしれないな。
 共通の友人でありながら今回不参加だった沼田の言葉が頭にチラつく。学食堂で柳瀬だけに話していたのだ。
 ミイちゃんと合澤ってガチでデキてると思うよ、と。
 理由は、去年から二人の様子がおかしいことと、人気のないE棟で泣いている合澤を抱き寄せてキスをしていたのを目撃してしまったということ。後者はかなりリアルだ。その話を聞いているから、今目前で恋人同士のようにくっついて寝ている二人を見ると真実味が増す。
 ……まあ、ガチでデキてても俺は引いたりしないけどな。
 とりあえず二度寝しようと床にまた寝そべった。五月半ばの朝はまだ空気がひんやりしている。目を閉じればすぐに睡魔がやってくると思っていたが、沼田の言葉は案外威力があったのか、ベッドの二人が気になって寝れなくなった。
 ……合澤んちに行くならガチでデキてんのか、探ってみてよって言われてたなあ。そんな面倒なことする気は起きないけどな。宅飲み中は普通だったけど、まあ合澤はかいがいしくて三池が甘ったれなのは今にはじまったことじゃねえし。
「クしゅん!」
 かわいらしい響きのくしゃみが、ベッドから聞こえていた。
 立て続けに数度。柳瀬は寝の姿勢を崩さないまま、合澤が起きてくるかもしれないと思った。あのくしゃみの仕方は合澤だ。
「晴巳、さみいの?」
 聞こえてきた声は意外にも三池のものだった。ごそごそと掛け布団の音がする。
 ……晴巳? ああ、合澤の名前を下で呼んだのか。
 すぐに気づいたが、大きな発見だった。三池が合澤を下の名前で呼んだのをはじめて聞いたのだ。
「ううん、大丈夫。ごめん起こして」
「今何時? 七時過ぎか……も、起きるか?」
「うーん、半になったら」
「じゃあ半になるまで」
「うん……ぅん、ミイ、ん、待って、」
「ちょっとだけ、」
「も、ダメって、……ん、っん」
 声を潜めた会話だが柳瀬には筒抜けだ。しかも、途中から明らかに様子がおかしい。合澤の呼吸すら色づくような雰囲気を出していて、デキているデキていないを五分五分で考えていた柳瀬も、無意識に息を殺した。
「ふ……ぅん、や、ん!」
「晴巳、かわいい」
「え、待って、そこ、ミイ、」
「やばい、マジでヤリたくなってきた」
 ……いやいやいや、マジでダメだろ、三池。
 デキているのが確定した発言よりも、暴走しようとする三池を制したい思いに駆られた。この場で本当に合澤を性的に求められても困る。隣で爆睡している村尾は全然気づいていないのだ。三池と合澤は付き合っているのはもうわかったから、自分たちのいない場でしていただきたい。
「っん、ん、……ミイ! ごめん、お願い、夜、いっぱい、するから。ミイの好きなこと、いっぱい、」
 静かな懇願は通じたのか、ベッドがキシッと鳴った。起き上がったのは合澤だろう。ベッドから離れたのは賢明だ。しかし、三池はそれでも食い下がるつもりなのか、合澤の後を追うようにキッチンへ向かっていく。
 会話は耳を済ませなくても「夜、ナニをしてくれるか」という話だ。水音やコンロの火をかける音の合間に、三池が好きな子をからかうような口ぶりで合澤に訊いて困らせている。
 ……確かに、恋人から『好きなこといっぱいしてあげる』って言われたら、男としてはガチで舞い上がるよな。
 思いのほか三池の気持ちもわかってしまう。合澤は本当に人を甘やかせるのが上手なのだ。女だったら、今頃タチの悪い男につかまってボロボロにされて泣いていたかもしれない。
 ……だからって、今の状態もそのままにしておけないだろ。
 この雰囲気だと合澤が押し切られてしまいそうだ。朝からヤるのも、夜いっぱいプレイするのも好きにすればいいが、自分の前でだけはやめてほしかった。
「それならバスルームでも、今やれんじゃん」
 馬鹿な三池の発言が耳に届いた瞬間、柳瀬は勢いよく身体を起こした。
「君たち、おはよう」
 爽やかに声をかけると、キッチンでギョッとしたような三池と、みるみる血の気を引かせる合澤がいた。三池の両腕は合澤の腰にまとわりついている。沼田のようにキスをしている現場ではないだけ平和かもしれない。
 意図しないかたちでカミングアウトしたかたちになったのだろう。しかし、三池のほうは平然としていた。
「起きてたのかよ」
「起きるだろ」
 さすがに動じない。合澤のほうは顔面蒼白のまま、柳瀬ではなく三池を見つめていた。バッと三池から身を離して体裁を保つようなこともせず、どうにかしてほしい、という不安を全面に三池へ見せている。
 それに三池も気づいたようで、ぐいっと合澤をさらに引き寄せて抱き締めた。慣れた手つきで、頭を撫で宥める様子はすっかり恋人を守る彼氏だ。合澤はなすがまま、恥ずかしいのか三池の首元に顔を埋めている。
 ……これは、だいぶ前から付き合ってるな。
 大学内でもすぐ二人の世界をつくる三池と合澤だったし、実は同性の恋人同士だということに驚きもなかった。ただ、一応二人とも外に出たときは気を遣っているのかもしれないが、三池の様子では『同性カップルに理解できないやつが悪い』のスタンスにみえる。これだと隠したがっているようにしかみえない合澤の負担になるだろう。
「三池、マジで気をつけろよ。あと、合澤に苦労かけんな」
 こんなことは言いたくなかったが、二人をよく知る友人として言っておく。三池は途端に子どものようにむくれた。
「合澤、俺は味方だからな」
 三池に顔を埋めて怯えている合澤には、やさしい言葉をかけた。すると、俺が一番の味方だ、という彼氏面が返ってくる。それに苦笑しつつ、柳瀬も立ち上がった。
「お湯沸いてんなら、なんか飲み物いいか?」
 合澤がようやくパッと身体を離して「用意するね」と小さく応えて薬缶に向き直る。その隣で、三池がぴったりくっついて「俺も、いつもの」なんて甘えている。
「ミイ、やめて、恥ずかしいから」
「んー、恥ずかしがってるハルちゃんもかわいいもんなあ」
「……ほんと、もう、……柳瀬もなんか言ってよ」
 コーヒーの用意をしながら言葉だけで助けを求める合澤に、良いカップルなんじゃないか、と返しそうになった。そんな自分の懐の広さも再発見できて、柳瀬自身にとってはなかかな気分の良い一日のはじまりだった。




... back