* 空間 *


 辺りには静寂が薫っていた。  先刻までの喧騒が嘘のようだ。暗がりにほのかな光を残して映る、時を止めた景色は、世界の輪郭にブラシをかけて溶け込んでいた。隠し護るかのごとく囲んだ木々は、近間にある華やかな大通りの喧騒を吸い込み、素知らぬふりで佇んでいる。
 都会とは切り離された公園は、まるで所在のない空間だ。何にも染まらず切り取られた場所は、立体的に広げた「点」だ。一続きに機能しているはずの時間も世界も、常にそこでは立ち消えていた。
 その中では、周囲に点在するすべり台やブランコといった遊具が、遠い街灯の明かりに照らされていた。この地に縛られ、取り残された遊具たちは、健気に夜から耐えている。朝になればまた、ちいさな暴君たちが、この玩具たちをさまざまな振る舞いでもって愛でるのだろう。その時まで、彼らは息を潜めて毎夜の闇を超えていく。
 私は、彼らのもつ包容力と存在意義にそっと迫った。どこか同情にも似た感傷が生まれ、遊具たちのひとつに触れる。大人になった私でも、受け入れてくれるのだろうかと心の内でささやく。絶対的な孤独と自由を分け与えてくれるかように、ひやりとしたものが喉元に伝わっていく。
 此処は独りになりたくなると、行き着く場所があった。
 それは、どの街にも存在し、どの街でも時を隔てた向こう側にあった。そして、すべての人を赦し受け入れている。何にも属さない園に憧れ、どこかで赦されたいと、私は半ば懺悔をするかのように足が向かう。ままならぬ日常から抜け出して、得たいと欲する実感は、独りよがりよりも空虚で冷ややかだ。そうして、隔たりなく受け入れるこの小さな世界で、私は時折、誰のものでもない「私」になるのだ。


 足で踏みしめるごとに、いらないものがぷつりぷつりと落ちていった。その感覚をつかむ。そっと手繰り寄せて、よみがえる。




... back