* もんしろちょう *


 幼い頃の愛莉は、珍しく虫が好きな女の子だった。苦手な昆虫は少なく、男の子たちよりも虫に接することに慣れていた。羽を持った虫を追いかけまわすのが好きだった。
 愛莉はとりわけ、純白をまとってふわふわと空を飛ぶ、もんしろちょうに見惚れていた。いつも、手のなかにおさめることばかりを考えていた。きれいなものを、自分のすぐそばにおいておきたいと願う気持ちは、誰にだってあるものだ。愛莉はいつだってそう思っている。
 夏の暑さが残るある日のことだ。愛莉は念願叶って、美しいものを手に入れた。もんしろちょうを生け捕りにしたのだ。幼い彼女は、喜びに包まれて虫かごをずっと抱えて側を離れなかった。ついに我がものとなった白いちょうは、どこか虫かごの中でくすんでいるように見えた。違和感に眼が離せなかった。
 翌日、檻のなかに揺れていたもんしろちょうは、ただの白い紙切れのように生を失っていた。愛莉は息の詰まる心地で、その折り重なる羽を眼にした。そして、違和感に名付く言葉に気づいた。
 一頭のもんしろちょうが愛莉のそばを通りゆく。年月を越えた彼らは、ひらひらと羽を揺らして青い空に白を際だたせている。あの頃と遜色違えず、彼らはただ花を探す。
 愛莉は相も変わらず、その美しさに目を細める。大人になった彼女のなかから、美しいものを自分のものにして、閉じこめてしまいたい気持ちが消えたわけではない。
 しかし、愛莉はあの日から気づいてしまった。
 自然のなかで自由に舞うちょうが、私の愛す彼らのかたちなのだ。
 春になると、彼女はそう思い出してちょうを見る。



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