* 浜辺の贈り物 *



 私はウニが食べられない。  そして、高そうな薄い木箱に敷き詰められたウニの姿が信じられないのだ。私のウニは、いつだってトゲトゲした黒い殻の中にある。
 亡き祖父は漁師だった。船を持ち、風と空から天気を呼んだ。現役を退いてからも浜辺でパーティをするときは、モリを持って海原へ出かける。素潜りも得意だったから、上等なウニをあっという間に集めてくるのだ。
 幼い私は、それをいつも待ちわびて海を見ていた。沖縄を囲う碧色の海は、私の原風景だ。元々は本州育ちで、沖縄にはただ生まれただけという記憶の少なさだったが、確かにこの海は私の中に息づいていた。それは私の心に宿る宝石だった。沖縄の海は宝石の色と同じだった。
 海からモリを持って現れる祖父は、宝の原石を探す王だった。荒々しく海をまとう彼の血を引いていることが、私にはうれしかった。まるで海に愛されることを保証されたようなものだった。珊瑚の海をいつも駆けた。海神のような大きい祖父の身体が背負う網には、トゲトゲした黒いウニが詰まっていた。私はいつでもドキドキした。側に寄って、食べたいと彼にせがんだ。
 幼い私に、祖父はまもなく器用にウニの殻を割く。そして、足下の塩水で軽くゆすいで私に渡す。無骨な手から、私はおそるおそる両手で受け取った。トゲトゲしたウニの殻は少し怖かったが、大切な器だ。生きているものを食べることを、私はその器を手にして学んだのだ。
 祖父は、味わうのように食べる私を見て笑った。
 ヤマトでは味わえないだろう。
 誇らしげにそう言うウミンチューに、私は満面の笑みで頷いて、もっと食べたいとせがむのだった。
 それは、もう二度と味わえない思い出だ。
 私の眼には今も、スーパーマーケットなどで売られるウニのかたちが異様に映る。シャリの上に鎮座するウニが、別の生き物のように見えてくる。そして、祖父がくれた思い出を繰り返すのだ。あの味に勝るウニはもうない。
 だから、二度とウニは食べられない。



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