* 水曜日【第12話】 * |
「犯されて感じてたのは、あんたのほうだろ。痛がってたのが、最後はオンナみたいに喘いで、」 至近距離に立った背の高い高校生に、志村は身じろぎすらしない。見上げもしなかった。 「いつもそうやって、オトコ咥えて善がっているんじゃないんですか?」 耳元で問いかけても、背広姿の男は幹のように落ち着きを払っていた。逆に、夏紀のほうが自分の言った発言に腹を立ててしまっていた。 この男は、自分以外のオスを咥えて喜ぶのだ。 二人の男と関係を持っていることは、屋上から見ていて知っている。夏紀以外の男たちに組み敷かれ、突っ込まれ、快楽に紅潮し、精液を注がれ、美味しそうに飲み干すのか。許せない。 目の前の腕をつかんだ。仮に抵抗されてもどんな言葉を返されても服従させる気でいた。しかし、志村は抵抗することもなく目を逸らし沈黙したままだ。背広の生地を通して伝わる熱は、彼が生身の人間であることを教えている。夏紀はもういっそそれだけでよかった。引きずるようにして歩けば、彼も脚を動かす。拍子抜けするほど呆気なく、志村はプレイルームへ収容された。 連れ込んだ夏紀は、その手ごたえのなさにイラついた。ドアを閉めてバッグを落とし、明かりをつけた。 「ド変態」 ベッドの前に立たせて罵る。カーテンの見当たらない窓から、消えていく太陽の影が空一面に広がっている。部屋はあの夜の惨事が嘘のように白く几帳面に整頓されていた。何事もなかったかのようだ。 夏紀との夜は、志村にとってなんの変哲もない夜のひとつだったのか。 「脱げよ」 志村は言われるがまま、静かに上着を脱いだ。この調子で命令どおりにすべてこなして、夏紀が去るまで従順に耐えしのぐのかもしれない。そう思えば、彼の脱衣を待っていられなかった。 ワイシャツのボタンを全部外した瞬間に、夏紀は男の身体を押し倒してベッドへ沈めた。突然のことに驚いた顔をした志村は、すぐ表情をかたくする。夏紀は前回と同じように制服のネクタイを使った。脱げていないワイシャツとインナーを無視して両手首を縛り上げる。やはり抵抗はない。 ベルトを外しスラックスを下ろせば、彼の細い両脚は無駄な動きをすることなく、すっと現れる。毛量の少ない肌と、垂れ下がった性器。 仰向けからうつ伏せに返し、双丘を両手で広げる。流血していた穴はどうやら治っているようだ。女の膣に比べて明らかに狭い部分を指で確かめようとすると、尻が逃れるように動いた。 「待、て、」 「……なんだよ」 「使って、ほしいものがある」 感情を押し殺した声が聞こえた。尻を高く上げられた滑稽な志村の声だ。協力的な言葉にいろいろな思惑を考えたが、夏紀は一応耳を貸すことにした。ヤラせてくれるのは間違いない。 「コンドームでも使えって? いまさら?」 「いや。血が、……傷はなるべくつけたくない」 夏紀がはじめに確認したことは、志村にとっても気になる部分だったようだ。切れ痔と変わらない状態になるのは避けたいのだろう。そこで必要なのは潤滑剤だ。夏紀がその在処を訊こうとすれば、先に彼がローションの置き場所を教えてくれた。ベッドのそばに置かれた救急箱の中に、それは入っていた。ローションの他に軟膏や絆創膏などもある。プレイと処置のどちらに使うかわからないが、この部屋にあって申し分のないものだ。 流血をされたら、後に関わる。今日一日を簡単に終わらせる気がない夏紀は、邪魔な服を脱ぐと志村と利害を一致させたとおりにローションを垂らして、中を丹念にほぐした。彼はシーツに顔を伏せている。 一度目の挿入は、痛そうな彼の声とともにすぐ果てた。前回同様早い射精感をアナルのきつさと自分の若さのせいにして引き抜く。 深く呼吸する志村を仰向けに戻すと、彼は目をつぶって耐えているようだった。まだ肌は快楽を見つけていないようでもある。夏紀は彼の質感を確かめながら、手を滑らせた。同性の身体の仕組みは充分わかっている。肌は女より明らかに硬質であるにもかかわらず、こんなにも触りたいと思うのはなんなのか。触っても触り足りないと思えるのはなんなのか。 股の付け根を揉むように撫でると、ざらりとした部分を見つけた。顔を近づけてみると、変色した大きな傷があった。焼かれた痕のようにも見える。 数日前、志村が「やんちゃした痕がある」と話していたことを思い出した。夏紀は口づける。性器に近い場所だったせいか、彼の身体がびくっと震えた。片脚を押し広げて傷痕に舌を押し当てて滑らせる。痕はわずかな凹凸をつくっていて甘い感触をもたらした。 執拗にその味を確かめる。ぴく、ぴく、と皮膚が震えた。顔のそばにある彼の性器が勃起しはじめているのが目に入る。彼の性感帯なのかもしれない。意志を持ちはじめた竿に指を絡める。傷痕を舐めながら陰茎をあやしていくと、我慢できなくなったように男が声をもらしはじめた。 「ッん……ふ……ゥ、ん……んっ」 一方的に犯されるだけではない志村の変化を感じ取った夏紀は、自身の欲を取り戻して身体を起こした。広げていた片脚を曲げ抱えてもう一度ゆっくり身を埋め込む。柔らかくなったそこは揺らすと感じるのか、志村がかたく瞳を閉じながらも吐息をもらす。律動は穴の収縮と噛み合い、完全に勃起した志村の性器があたる。しごきながら動くと、たまらなくなったのか彼が喘ぎだした。 「あ、ッあ、ん……ッ! あっ、あっ、や、ン、ッ」 声を聞いていたかったが、男の射精姿に我慢できず夏紀は吐き出した。それでも妙に満足できない。縛られて脱げない志村の服が目に付いて、彼が呼吸を整えている間に床に置いておいた通学バッグを拾う。 昨夜寝られないあまりに、妄想しながらいろいろバッグにつめていたのだ。その中に鋏があったはずだった。服は邪魔だ。志村の服を切り裂いてやろうと中を探れば、鋏よりも先に紐と油性ペンが現れた。 深夜に一体なにを妄想してこんなものをバッグの中に詰めていたのか。覚えがないが、この二つの道具を見て鋏で服を切ることは止めにした。代わりに紐を取り出して、投げ出された彼の両足首を縛る。すでに両手首を縛られている志村は、脚の拘束にも諦めがついていたようだ。目を閉じてなすがままになっているを幸いに、夏紀は次に油性ペンを取り出した。 キャップを開け、躊躇いなく舐めまわした傷痕のそばにペン先を置く。すると、変な感触に志村が目をようやく開いた。彼の目が、何事か、と夏紀の手元を見る。すぐに字を書く道具だとわかったようだ。 「なっ! やめ!」 「動くと、尿道にペン先突っ込みますよ」 夏紀の一言で、彼の抵抗は途端におさまった。局部すれすれに好きなだけ文字を書く。ヘンタイ。ホモ。ビッチ。油性インクは一日以上消えないはずだ。志村の身体が屈辱と不安を感じたのか、かすかにふるえはじめた。しかし、夏紀は貶めるために書いているわけではない。蔑むというより、これは非難だ。男と女にヤラせないためのマーキングと同じだ。 書く言葉が考えつかなくなって、キャップをつける。なんとなく床を見れば、ブレザーのポケットから、銀色に光るものが少し顔を出していた。 志村が受け取らなかった、ここの家の鍵だ。夏紀にいたずら心が芽生えた。また目をかたく閉じて必死に耐える志村に気づかれないよう、ポケットから鍵を抜き取る。男の尻に戻って、アナルに指を入れた。ローションと体液で濡れた場所は、男根以外も受け付けられるようである。鍵を返すことにした。 なにかを埋める感触に、志村は慌てるように身体を動かした。 「中、傷つきますよ」 なにか喚かれる前に、敬語で言い放つ。油性ペンのときよりも志村は微動だにしなくなった。なにを突っ込まれているかわからないようだ。冷たくて角があってかたい形状に、顔がこわばっている。鍵を受け入れて穴がきっちり閉じるのを確認して、夏紀は口許を持ち上げた。 「鍵、返したんで、安心してください」 「……出、せ、」 「中にあるんだから、自分で取ってください」 息を殺した一言に、平然と返答する。夏紀は楽しくなっていた。引き続きペンを手にとって、インナーを捲り上げてバツや花丸など子どもじみた落書きをしながら、すべすべした肌を舐めまくる。乳首の他にも、脇の下なども感じるようだ。抵抗するように志村の頭が何度も動く。 「ッ、ん、……あ、……も、出せ、……だし、て、」 落書きを終えてキャップを閉めると、泣きそうな声を志村が出した。埋められた鍵の様子を見れば、体液とともに銀色の金属が半分、肛門から顔をだしている。一所懸命な穴の動きはとても卑猥だ。凝視した。 「お……ねが、」 「ほら、あと少し。半分でてきてる」 懇願を聞き流して励ますように落書きされた尻を撫でる。志村は夏紀の励ましにこたえて自力で鍵を出した。重力に従ってシーツの上に産まれ落ちた鍵は、キラキラと光を反射している。夏紀は褒美と言わんばかりに紐を解き、志村の身体に再度欲望を押し当てた。長い挿入に志村は苦しそうに喘ぎながら痴態を見せた。優越感と独占欲が満たされる。 立て続けに受け入れることとなった志村は、三度目の長いプレイで意識を手放した。夏紀も陶然としていたが、落書きされた彼の下半身を見ると疲れは飛んだ。通学鞄からスマートフォンを取り出して、夏紀色に染まった志村の全裸を撮影する。画像を確認して笑みがこぼれた。傑作だ。 意識の戻らない彼を見ながら、夏紀は一時日常に戻る。届いていたSNSを見て、必要なものにだけ返信した。叔母には、今日は友人の家に泊まって帰宅しない旨を送信する。高校になってからこのパターンで女遊びをしていたし、彼女には信頼されているから今回も問題ないだろう。今夜は志村の家を離れない。やれるかぎりのことをするつもりで来たのだ。 ふと窓の外に気が向いた。この部屋が明るいせいで夜空がかすんで見える。夏紀はベッドを降りて、窓を開けた。涼やかな空気が部屋に流れ込む。セックスのせいで籠もった匂いが分散され、全裸で窓開けて学校の屋上を眺める自分に不思議な心地を得た。それでも清清しさのほうが勝っていた。 志村の裸体を振り返って見れば、彼の目蓋が上がっていることに気づく。夏紀は横たわる身体のそばに腰をかけた。気分はどうですか? と、問いかけようと思ったが、返ってくる言葉は想像できる。時刻はあと一時間足らずで翌日となるから、ひとつくらい願い事を叶えてやろうと思った。帰れ、出てけ、とかいった台詞を聞き入れるつもりはない。 「なにか、してほしいことがあれば、ひとつくらいなら訊いてあげますよ」 夏紀がそう言うと、志村の目が動いた。乾いたくちびるが動く。 「風呂に、……なかが、きもちわるい」 尻すぼむような言葉に夏紀は目を輝かせた。風呂場。本人は言うとおり直腸に注ぎ込まれた体液が不快なのかもしれない。しかし夏紀にとっては、新たなシチュエーションを見つけたようなものだった。 「いいですよ」 明るい了解をして志村を起こさせる。弱弱しい力の男をどうやって風呂場まで連れ込むか考え、自分の筋力に賭けることにした。志村の体重を両腕で定めて抱き上げる。細身の見た目どおり、普通の女より軽い気がする。 「ッ、ま、って、」 「動くなよ。落ちるだろ」 びっくりしたような声を出す志村に、余裕のない夏紀は肩へかつぐようにして彼の両脚を持ち、ドアをくぐった。風呂場の場所を訊いて着くと、夏紀は存分好きなように落書きされた男の身体を扱った。 着衣のまま湯をかけてアナルを洗い、たまらず綺麗になったところをまた汚す。体力のある若い男に翻弄されて、ずぶ濡れのままぐったりした志村は完全になすがままの状態でブラックアウトした。タオルで拭いた身体をどうにかベッドのところへ戻すと、夏紀もさすがに疲れて目を閉じた。 空気の冷たさで、真夜中に目を覚ました。脱衣所から持ってきた数枚の乾いたバスタオルに包まれ、志村はまだ目を閉じている。彼にくっついて寝ていた夏紀は、身を起こして全開のままにしていた窓を閉じた。肌寒さから、シャワーをもう一度勝手に使って部屋に戻る。彼がまだ眠っているのを確認すると、今度は道具探しをはじめた。夏紀は性玩具を子どものように使って遊ぶ志村の痴態が、屋上から観賞したプレイで一番気に入っていた。ここは志村がわざとつくったプレイルームなのだろう。ならば、この部屋に淫猥なグッズはすべてしまってあるに違いない。 その予想は当たっていた。部屋にあるキャビネットの中に、バイブやローター、見たことのあるピンクの棒が几帳面にしまわれていた。おもちゃ箱のような収納ボックスからそのすべてを取り出して眺める。触って確かめる。夏紀は変態の集めた道具に感心していた。全部使ったことがあるのだろう。これらを自分の手で全部一から志村に使いたいと思った。 彼を見る。よく寝ている。夏紀のセックスでよほど体力を消耗したのかもしれない。……眺めていると、自分を無視して眠っている男が腹立たしくなっていた。夏紀はいくつもある玩具から、細身のバイブをひとつ選んだ。床に転がっているローションを拾ってベッドへ戻る。 起こさないように横向きの身体を少しうつ伏せにさせ、慎重に指を使った。アナルに異物が入ったのを感知したのか、唸り声を上げて寝返りを打とうとする。仕方なく夏紀はその身体を押し戻して指を抜き、柔らかいところへローションで濡れたバイブを突っ込んだ。スイッチを入れればどちらにせよ目を覚ますのだ。 「ぅ、ン! ……え、え……あ、ふ、あッ、ん! え、やッ」 案の定、直接身体の中に入ってきた振動に、志村はすぐ意識を取り戻した。つながっているリモコンからさらに振動レベルを上げると、弛緩していた筋肉がぎゅっと締まる。夏紀は彼の膝を折り曲げて、刺さっているバイブを手で深く出し入れしながら性器を弄った。夢の中から一気に現実へ戻され、戸惑いながらも志村は快楽に翻弄されているようだ。 この男の身体が理性より快感を優先する性質なのは、セックスを通じてなんとなくわかってきた。両手の拘束はなくなっているのに抵抗はない。体力がまだ回復していないことも抵抗のない理由のひとつかもしれない。 くるしい、ひびく、いやだ、と泣き出したあたりで夏紀はバイブを抜いた。代わりに、自分の性器を挿入する。 「はぁ……ふ、んッ、あ、」 正常位で埋めていれば、組み敷かれた男の表情が如実に変わっていくのがよく見えた。欲しいものを与えられたような恍惚を浮かべている。甘美でいやらしい。めいっぱいおさめると、喉を鳴らして仰け反った。 「あぁ……ん、んぅ」 動かないまま彼を見ると、欲しがるように腰がゆらめく。 この変態は、本当に男が大好きなんだな。 夏紀はそうしみじみと思いながら、善がる男の中に己を打ちつける。 「は、あぁ、あ、あ、あ、い、クッ! ぁあ!」 ぐちゃぐちゃにかき回されて失神しても、無理やり起こして犯した。 そして翌朝、太陽が出てきた爽やかな世界の中で、思い切り窓を開けた。 とうとう念願だった屋上から見た自慰を再現させた。 執拗なセックスで思考力が低下したのか、完全に諦めたのか、志村は夏紀に手渡された性玩具を投げることなく自分の下半身の中におさめて艶かしい姿態を曝け出した。その虚ろに快楽をむさぼる姿を動画で撮る。 また我慢できなくなった。バイブを突っ込ませたまま、フェラチオをさせる。 「ん……ふぅ……は……んぅ」 じゅぶじゅぶと舌を絡ませて自発的に動き出した志村は誰よりも巧かった。途中でピンポーンとインターホンが鳴ったのを無視して、彼の頭を押し付けた。夏紀の精液を飲みながら勝手に果てた志村に放尿を強要して、それも動画におさめる。 汚したところをタオルで拭かせている中で挿入すると、酷使してきたアナルがとうとう裂けた。 「いっ……あ、や……や、あ、い、あ、」 「痛いだけじゃないだろ。ほら、また、だらだら先から汁が出てる」 「ち、や、あ、あっ、あっ!」 夏紀はじっくり攻めて、最奥にどっぷりと欲望を注いだ。そして、則之をかついで血と尿まみれの臭い部屋を出た。 二度目の入浴で乳首や性感帯を集中的に甘噛みすると、朦朧とする男はとうとうしがみついて泣き出した。 「ら、め、……も、おかしっ……ふぁ……ひっ」 消えない落書きとにじむ血と涙に夏紀は幸せな気分になった。最後はリビングで組み敷かれ、いや、いや、たすけて、しんじゃう、と泣きじゃくる則之にぐっときた。やさしく突いてやさしく出した。 すぐそばにある学校へ登校する気はひとつも起きなかった。この身体とずっと接していたいと思いながら、意識を飛ばした志村の身体をしつこく舐め続けた。まるで夢の中にいるようだった。 |
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