* アメイジングタルト * |
悠世が呆然としたように、目の前のものを見上げていた。眉間に皺が寄っているのは、不機嫌からではなく、それが何なのか見定めようと目を凝らしているせいだ。 ちょっといいものを借りてきた、と、一瞬前に語った千博は、その様子を見ながら、これから実行しようとしていることを脳裏に描いてにんまりする。悠世はそうした彼より、対象物を凝視していた。 女子学生用のセーラー服一式である。 「なんで? え? これ?」 テンポをずれて、悠世が驚いたように千博の顔を見た。胡坐をかく彼の横に滑り込み、うん、と、平然と頷く。 「なんか楽しいじゃん。悠ちゃん、どう?」 「どうって? どういう?」 「これ、着るとか」 「え、なっ、やだよ!」 案の定、悠世は千博の膝に置かれた制服に拒否反応を示した。彼が酒を飲んであまり酔わないことは知っているから、酔った勢いで着せるのは無理だ。しかし、嫌がられても借りてきてしまった手前、とりあえず試してみなければ意味がない。 「でも、俺もちょっと着るし。とりあえず、じゃんけん」 着せあうならいいだろう、と、千博は押し切って右手を出す。自分だけではなく千博も着るのだと悠世は少し安心したのか、単なるじゃんけんの条件反射かわからないが、彼も律儀に片手を出してくれる。千博はすぐに手を振った。じゃーんけーん、と、続けて勝敗を見せあう。 チョキとグーだ。千博は沈黙して、自分のピースを見た。 負けてしまうと少し劣勢になる。どのようにセーラー服の試着会をはじめるか、プランを練り直そうとしたところで悠世の声がした。 「スカート以外」 その言葉に千博は顔を上げた。悠世も何かしら考えていたようだ。セーラー服のこと自体をなかったことにするより、先手を打って一番嫌なものを遠ざけるべきだと思ったのか……とりあえず、セーラー服試着会自体は却下されなかった。 千博は、「いいよ」と、即答した。 スカートを履くくらい、難しいことではない。 「悠ちゃんは、こっちの上のやつ」 スカーフのついた上着を見せると、彼も頷く。セーラー服の上ならば問題ないようだ。千博は立ち上がって、プリーツの入ったスカートを手に持った。 「じゃあ、履きます」 宣言すると、悠世もおもしろいことが起きると思ったようで、明るい表情に戻る。千博は先に下を脱いでからスカートを履くことにした。パンツ一丁になることにまったく抵抗はない。短いスカートを上げて、腰元でホックをかける。履いたところで服を着た気分にならなかった。悠世はすでに笑い出していた。 「ちひろ、それ、」 身体をはったギャグと言わんばかりに見つめられて笑う。そこまでおもしろいか、と、ニヤつきながら心許ない下半身をソファに落とす。 「どや?」 「すね毛がきたない」 悠世の感想は的確すぎた。そのとおりだ。千博もつい笑ってしまう。それでもTシャツとあわせていると、そこらにいる気だるげな女子高生と服装だけは変わらなくなる。 「ほら、悠ちゃんも上着て」 膝の上も隠さないほどの短いスカートを見て、延々と肩を震えさせている悠世に、スカーフと白いセーラーを渡す。わざわざ悠世に制服を着せるためにここまでしたのだ。笑いながら受け取った彼は、着方がわからないようで伸びない生地に千博を見た。 「ちっちゃくて着れないよ、これ」 「や、着れるって。ここらへんに……チャック、あった、」 着衣を逃れさせないように、素早く千博が脇にあるチャックを上げて促す。悠世が服を脱ぐところを見ながら、上着を着せる準備を万端にさせた。上半身を裸にした悠世の身体には後で触れることにして、はい、と、セーラー服を強引に頭から被せた。もぞもぞしていたが窮屈ではないようだ。首と両腕をとおしたことを確認して、千博がチャックを締め、アクセントとなる大事なスカーフを悠世の前にあわせる。 これで、悠世の着替えも完了した。彼は不思議な気分になったようで、半そでのセーラー服を見て触る。その姿を千博はじっくりと見つめた。やはり、上だけでもいい。むしろセーラー服で重要なのは上着なのだ。スカートは何でも代用できる。セーラーを着た悠世は想像どおりとてもよろしい。 「似合ってるじゃーん」 目に入れても痛くないくらい甘い表情で感想を述べる千博を、悠世は訝ししそうに見つめて視線を落とした。千博のスカートが目に入ったのは明らかで、また笑い出す。彼に笑われている隙に、千博は画像を撮れるものを探しに動いた。どこか手の届くところにスマートフォンを置いているはずだ。ソファから身体を反らして、該当物を取る。すると、何か妙な感触が脚についた。 「ん? ちょ、悠ちゃん!」 身体を起こして、声を上げた。彼は笑いを堪えきれない状態で、ガムテープを手にして肩を震わせている。露となった膝上に、ガムテープが貼られていたのだ。 「これ、」 「は、はがそうか?」 「これ、絶対痛いって、」 「あは、はは、いっ、はらいた、」 悠世が腹を抱えて破顔している。どこにガムテープなんてものが転がっていたのか疑問だが、それを貼った悠世にもしてやられた。しかし千博に剥がす勇気はない。 「これどうすんの悠ちゃん」 「だからはがそうか」 「どう考えても痛いじゃん」 「痛いよね」 「ほらー見て」 「スカートめくんのやめ、あはは」 と、双方で笑いながらじゃれはじめる。気づけばスマートフォンはソファのどこかに埋もれて、悠世を押し倒している状態になった。 仕返しのようにキスをする。それを悠世は抵抗なく受け入れた。千博の最終的な目的を、彼は最初から了承していたのだろう。自然な成り行きでセーラー服着衣のままセックスに持ち込めるのだから、スカートを履いていることくらい問題ない。 むしろ、愛撫を続けていれば、スカートのほうがセックスの手順的に楽だと気がついた。スカートとという代物は、半分服を着ていないのと同じだ。今まで受ける側がスカートだったことが基本なので、それを考えれば、だから女性とコトを運ぶのは楽だったのだと、余計な結論に至る。 千博の身体がのしかかってくると、悠世もスカートには気をとられなくなったらしい。いつものセックスのような反応になって、千博に下半身を委ねる。セーラー服を紙袋から取り出したときに、同時に転がしておいた潤滑剤を使い、到達したい奥間へ突き進む。開いた悠世の身体に自らの身を割り入れて、千博は挿入を開始した。 「……んっ……ふ……んんっ」 さすがに回数をこなしているので、スムースに奥へ埋まっていく。軽く声をかけて動いてもいいとわかれば、千博はゆっくり身体をずらした。悠世はちゃんと感じてくれているようで、眉をゆるく寄せて目を閉じている。律動の動きでよれる紅いスカーフが、セーラー服を誇示している。女子制服の悠世を組み敷いているというだけで高揚感が増す。特殊なプレイが好きなわけではないが、これはいい。ひじょうに元気が出る。 しかしながら、律動に服がどうにもかしましい。スカートのせいで妙に動きにくいのだ。捲り上げても無駄だと悟り、千博は身体を起こした。 「……このスカート、じゃま、」 手早くチャックを下ろして、取っ払おうとする。しかし、脚から抜こうにも、今の状況では果たされないことに気づいた。 脚の付け根すらとおらないのは、結合中だからである。 チャックがなくなったスカートは中途半端にまとわりつく。千博の静止に悠世が目を開け、そのまま瞠目した。千博も彼の視線に導かれて下を見る。スカートが重力に負け、千博の腰から完全にずれていた。半分近く尻が露になっている。 ガムテープを腿につけて、スカートを履いた半ケツ状態で攻めるという意味のわからない展開になっていた。途端に、悠世が挿れられたままの状態で爆笑をはじめる。千博も笑うが、それが互い下腹部を刺激することへつながった。 「え、ゆうちゃ」 「あ、待っ、」 思いがけない快感に二人は慌てた。互いがつながっている中で、筋肉を変に使ったのだ。 「マジ、なか、」 笑いのおかげで悠世の内部がいい感じに揺れて締まり、千博を翻弄しようとする。 「あ、ッ、ん! え、え、あっ」 コントロールが利かない悠世から、千博はどうにか素早く体勢を整えた。不可抗力で巻き起こった快楽の流れへ素直に乗る。 千博が身を動かして直接的な性を吐き出すと、すぐ悠世の熱も指で解放させた。衝動に押し流されて、少し荒いを息を宥める。すると、おバカな状況でやって終えてしまったことがおかしくなってくる。 悠世は完全にツボに入ったらしく、射精してセックスを終えてもまだ笑いに引きずられている。受けている側が笑ったせいで下腹部が締まり、それに催されるというのははじめてのことだ。大体、情交真っ只中に爆笑が起こること自体おかしい。しかし、笑いを引き出した自身の行動も、最初からバカげていたのだ。 笑いの止まらなくなっている悠世にもたれて、千博も肩を震わせる。ひとしきり笑いが落ち着くと、少しだけ千博は身を起こした。 悠世のセーラー服を脱がせずセックスしたのは正解だ。白い生地が汗に湿り、艶やかな印象にアップデートされている。ゆるくウェーヴのかかった彼の髪を指で上げて、あらわれた額に顔を近づけた。自分のそれにコツンとあわせる。 「もう一回、ちゃんとしていい?」 そう訊けば、セーラーの彼は快く頷いてくれた。軽く音を立ててキスをする。離れてすぐ、悠世が言う。 「先に、そのガムテープはがしてから」 「えー、悠ちゃーん!」 思いがけない返しに千博が眉を下げて嘆く。その姿を見た彼は、またおかしそうに破顔した。
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