* with my heartbeat. * |
周(あまね)のうなじに浮き出ていた汗の粒が、皮膚の戦慄きにあわせ滑り落ちた。限界まで捲し上げられたタンクトップに吸収される。露わになっている胸元には、快楽を導く男の指が棲みついていた。骨格を辿るように薄い肌を撫で、時折くちびるを這わす。慎ましく尖った乳首をすりつぶすように慈しみながら、もう片方の指が一本、下方をゆっくり蹂躙している。 一度精を吐き出だされてから、勃ちっぱなしになったままのちいさな乳首が、周にはいつも不思議だった。自分で触れる程度では感じもしないのに、と、つたなくなった理性を引き出しながら、興味本位で自分の指を胸に這わしてみる。突起をつまんで擦れば、無意識に吐息が漏れた。 もどかしく触れていると、周の手にもうひとつの手が重なる。もう片側の乳首を愛撫していた翔悟の手だ。 手は重なったまま、乳首のあやし方を教授するように、周の指を誘導していく。周が眉を寄せて睫毛を伏せると、翔悟は耳許に頬を寄せ、耳の付け根をなぞるように舐めた。下方をまさぐる指が、もう一本増やされてなかへ潜る。 ベッドのサイドを飾る光彩は、脆く淡い。しかし、ベッドのヘッド部分に身体が凭れているせいで、行為は鮮明に映っていた。本来、頭を乗せるはずのピローは、壁と背中の間に差し込まれ、周は壁と翔悟に挟まれたかのような状態だ。 体育座りのようにきつく折り曲げた細い脚、立てた膝と膝の間に割り込まれた、もうひとつの身体。内部で動く手は、周の肢体を熟知していると主張していた。周の触れてほしいところを的確に愛撫してくれる。 芯の握られて動きを制されているというよりは、快楽に溺れかけて身動きが取れない。翔悟の動く腕を鈍くつかむ。もどかしい熱が何度も駆けめぐって息をとめる。出し入れを繰り返し、内部をさすられるたびに、足のつま先がピンと伸びる。性感部分を刺激されると、気だるい身体は否応なく反応してしまう。 周の素直な反応を窺いながら、翔悟はそうやって周の性感帯を見つけてきたのだろう。そうに違いないと思う周は、そこに少しだけ悔しい気持ちと、翔悟のひたむきな愛情を感じていた。呆れるくらい、自分は愛されているのだ。 ベッドのシーツを足の甲で波立たせながら、翔悟の首筋を撫でる。指に馴染む脈音。下のシーツには、点々と染みができていた。忙しく蠢き、ちゅくちゅくと泡が立ちそうな音を視覚と聴覚で捉えると、劣情も一際快感に直結していく。身体をつなげるようになってだいぶ経つのに、目の前で実際に与えられている卑猥な光景を直視すると、周はどうしようもないもどかしさを覚えた。 「……ぅ、……ん……っ」 ビクビクと震える己の身体は、擦り込まれた乳首と丹念にほぐされる下肢を凝視するほど熱を孕む。 痛いことが多く、あまり好きになれなかった挿入という行為を、いつから欲するようになれたのだろう。虚ろな理性では、翔悟とのセックスの回数すら思い返すことができず、周は挿入されるもののほうへ無意識に視線を移した。 何を思っているのかはわからないが、周の焦点をあわせたところを知れば一目瞭然だ。翔悟のかたちに生々しさに、周の内部は期待する。男を欲しがる自分の肢体の変化に驚き、周は誤魔化すように湿りきったタンクトップを掴んだ。 タンクトップを脱ごうとする動作は、翔悟にもすぐ伝わったようで、愛撫が一時おとなしくなった。捲し上げられたタンクトップは、水分を含んだせいで滑りが悪く、周が思っていた以上に脱ぎにくい。四苦八苦していると、翔悟も空いた片手で手伝ってくれる。 指は挿れられたままなせいか、自発的に身体を動かすと、妙な疼きが巻き起こった。セックスのときの翔悟は特に、周が我慢しろと言えば、意地になって我慢をする。しかし、そろそろさすがに辛くなっているだろう。周も、自分の限界がすぐそこまで来ているとわかっていた。 周は反射的に目を瞑った。首からタンクトップを脱ぎ去るために、手で服を引っ張る。すると、半分くらいの地点で、その手を翔悟の手に制され、あたかかく湿ったものがくちびるに触れた。タンクトップの生地が目隠しになっていて見ることはできないが、翔悟にたまらずキスをされたのだ。 半端な状態のまま、掬い取るように下唇を吸われ、周は抵抗する気もなく薄く口を開いた。熱い舌で粘膜をなぞられる。その心地良さに、熱心に応戦しながら、二人でタンクトップを脱ぎ取った。自由になった周の手は、翔悟のうなじにまわる。 その淫猥な音とともに、内部をほぐしていた指がさらに増えた。三本指に押し拡げられてなぶられると、どう対処すればいいのかわからなくなる。周は反射的に舌を引っ込ませたが、翔悟に追い立てられて、なし崩しに舌を差し出した。絡めとられ、唾液が顎を伝う。後頭部を壁に押さえつけていても、ずるりと身が落ちていく。耐え切れなかった。 周の手が、翔悟の股間を掴んだ。途端に舌が離れ、周は熱に浮かれたように息を吐いた。 「も、う、」 すぐに指が抜かれた。 用意のために身体を離した翔悟にかまわず、周はごろりと寝転がる。べたべたに汚され、極限まで引き出された欲望が熱い。それもつかの間、翔悟に脚を掴まれた。 「いくぞ」 躊躇いもなく目いっぱい脚を拡げられ、張り詰めた性器が押し当てられた。 指とは比較にならないものの挿入は、いつものごとく奇妙な異物感に支配される。それをこらえるように、周はゆっくりゆっくり呼吸を繰り返しながら、シーツを握り締めて目を閉じた。一所懸命に受け入れている内部が、これまで挿入されてきた数多の記憶を呼び戻す。時間をかけてすべて埋め込まれると、愉悦に翻弄される感覚を思い出した身体が翔悟を食んだ。 翔悟に穿たれ、縫いとめられた下肢は今も信じられないほど滑稽だ。あまりにおかしな風景だが、今更その異常さを思いやったところで、周にはどうのしようもなかった。今の状況に、身体が歓喜しているのだ。 より当たりの良い位置に落ち着くため、翔悟が二度軽くほどスライドする。それだけで、ククッと身が窄まり、背中が痒くなるような刺激を周は感じてしまっていた。翔悟に突っ込まれて悦ぶ姿態への狼狽は、長い時間をかけて薄れてはいたが、どうしても気恥ずかしさが残る。周は、素直になるばかりの肢体の反応から逃れるべく、腕を伸ばした。 前のめりになる翔悟の胸へ、そっと周の細い手が当たる。すると、翔悟はストップというジェスチャーなのかと勘違いして動きを止めた。周の濡れた瞳を見つめる。 翔悟が静止して、はっきりとわかる心音。周の意識は、すぐ一点に向いた。全力疾走でもしたかのような翔悟の心音が、指の薄い皮膚を伝う。思いもよらなかった翔悟の激しい鼓動に、周は理性を少しだけ取り戻して、頬を緩めた。 「すごい、ドキドキいってる」 ものすごく緊張しているのか。馬鹿みたいな鼓動の速さだ。しかし、今のセックスがはじめてならまだしも、すでにそんな季節は通り越している。 からかう要素を見つけたように笑う周に、ようやく翔悟は笑われた理由に気がついたようだった。途端に、顔を紅くした。 「好きなヤツとしてるんだから、仕方ないだろ」 照れながらも臆面なく言われた台詞に、周は三度瞬きをして、次第に頬を紅潮させた。 つられて照れた周の胸に、翔悟も手をおいてゆるゆる乳輪を撫でまわす。周は返す言葉も見つけられないまま無意識に腰をすりつけ揺らめいた。それが合図となったようで、膝裏を押されずくずくとストロークがはじまる。 「ぁ……んっ、はっ、ぅんっ、」 接合部がじゅくじゅくと鳴った。揺すぶられながら周は自分の手で射精に導いていく。前と後ろの強い性感部位を攻めたて、官能という言葉では言い表せない恍惚が精神を崩す。震える指を抑えるように握り込み、より深く翔悟を飲み込んだ瞬間にその意識が飛び散った。 男に突っ込まれて自慰する姿が、翔悟には扇情的に映ったのか、吐き出して細かく震える周の腰を、容赦なく引きずり込んで打ちつける。射精後の弛緩を許されず、解放された喉が、呼吸を求めるたびに嬌声をかたどった。声がでてしまうことにかまう理性など残っていなかった。 「いっ、ぁあ、あっ、ぁ……あッ」 早く解放されたい。快楽に重さに耐えられなくなって動く周の気持ちを察したのか、嗜虐心に駆られたのか、翔悟の律動も勢いに乗せ、いつもより時間をかけずに周のなかで果てた。荒い息をすぐには殺せず、埋められていたものが引き抜かれる。その感覚に周の全身が震え、か細く喘いだ。その痴態を、きつく抱きしめられた。 周は脈打つ鼓動に額を寄せる。翔悟の指が優しく髪に触れる。抱きしめられれば気づける心臓の音を、今まで意識したことがなかった。 翔悟が周の頭部に鼻を押しつけ、「もう一回、したい」とささやいた。 解放されたばかりの身体は、早くも食い散らかした欲をかき集めて蠢いている。 「うん」 周はちいさく頷くと、再びかぶさってきた身体に両手をまわした。
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