* サマーフィズ03 *


 夕暮れ時に近づいた太陽が、赤に近い金色の光を部屋に与える。熱を帯びた幼馴染の肌は艶やかな光を淫らに転がして、由徳の想いを膨らませる。
 幼稚園に入る前から仲良くしていた存在。それが、同じ高校を選んで進学してから関係に色をつけた。由徳が押し留めていた想いを、友実が暴いて認めさせたのだ。
 幼馴染というカテゴリーに隠れた感情の名前。
 由徳は愛しい背中を撫で、ねばついた体液とローションが混ざったものをすくうと窄まった一点にあてがった。友実は慣れたようにゆっくり息を吐く。弛緩した窄まりへ指を入れると、入り口が収縮を繰り返した。スライドさせれば、異物の感覚を追いかけてキュッと締めつける。男の肉が与える快楽の記憶を思いだしているのかもしれない。もう一度潤滑剤を塗りつけ丹念にほぐした。
「ふ、あ、……は、ぅん、ん、あ」
「いたくない?」
「ぅ、んっ」
 返事とともに三本の指を食むように受け入れる。震える腰は快楽を求めている合図だ。前の性器もあやすと友実の息があがる。くわえ込んだ指をかきまわせば、グチュグチュと美味しそうな音が響いた。
「あっ、あっ、」
 耐え切れないように、甘い声が漏れる。友実はまだ挿入だけでイッたことはないけれど、そろそろできるようになるだろう。勢いあまって無茶させて何度も後悔しているぶんだけ、友実の気持ちと身体を大切にしたかった。
「とも、ちょっと」
 指を抜いて両手で彼の細い腰を掴む。友実も無意識にしがみついていた手を離した。ゆっくり身体を横たえ、より楽な体勢へ促す。開かれた脚は恥じることなく、受け入れるために汚されていた。
 友実の片脚を広げ、由徳は慎重に押し入った。組み敷いた肢体は、進入が深まるごとにヒクヒクと戦慄く。
「……ン、っん、……ぅ、あ、んっ」
 『埋め込まれる感覚ってものすごい衝撃で、なかなか慣れないんだよ』と、以前言っていた友実が、身体いっぱい受け入れようと呼吸を繰り返していた。そして、こうも言っていた。
 『入っちゃえば、なじんでくるから気持ちよさもでてくるぜ』、と。
「よし、はいったー」
 一仕事を終えたような独り言をついうっかりだしてしまうと、友実が深い息を吐きながら眉をひそめた。
 確かに宣言する代物でもないが、実は挿入までこぎつけたのが久しぶりなのだ。高校生といっても、部活に忙しすぎる人間を無理強いするわけにはいかない。しかし当然だが、代替が利くものでもない。
 満たされるような感覚に、由徳はひたりと汚れた友実の下肢に触れた。早く動けよと言わんばかりの表情をして雄を食む。彼との結合部分を凝視した。卑猥だけれど愛しい。一度腰を引いてまた押す。幼馴染の体内に入っていく様を数度繰り返すと、友実も気になったらしい。
「も、見、るなっ」
 声に眼を向ける。友実が恥ずかしそうな表情で、顔を背けていた。懲りずにスローな快楽を与えれば、握り締めたタオルケットに顔を埋めた。
「あっ、ぅん、……あ、あっ、あっ」
 激しい打ち付けではないのに、友実の性器が完全に勃ち上がっていた。いつも喘ぎを我慢する友実が、タオルケットの中で堪えきれず声を漏らしているのだ。
 ……うそ、すげー、感じてる?
 意外な展開に、由徳のテンションも一気に上がった。ゆっくり抜き差しされると強く感じるのだ。
 由徳も我慢出来ず、友実からタオルケットを剥ぎ取った。暴かれた彼は、慌てたように声を上げる。
「バっ、あっ、ン! あ、や、あっ」
 バカと罵倒される前に大きく腰を引いて押す。潤んだ友実の瞳から涙がこぼれた。快楽におちていく姿を見て、由徳の身体も勝手に動く。
「あっ、あっ、ぁん! あ! ぁん! あぁ!」
 不意打ちのようにうねりだした波に、友実は余裕を失ったように仰け反った。奥を突く刺激がダイレクトに伝わっているようだ。収縮する穴が締め上げると、埋め込んでいる由徳の性器はますます大きくなった。それを悦ぶように、組み敷かれた肢体が過敏にしなる。
 友実自身も、今までにない快感の強さに戸惑っていた。片脚を掲げられ翻弄される感覚は加速する。埋め込まれた違和感は大きいのに、穿たれるスピードが制御不能の甘い電流をつくるのだ。
 単純な享楽ではなく、複合的に織るように身に伝わる刺激。自慰行為得られない、内部を熱く暴く熱。
「あ、や、あ、あっ、あっ、ぁああ!」
 由徳が強い力で制す。昇りつめていく、という言葉が、友実の脳裏に落ちた。より快楽を引き出そうと打ちつけられ、縫いとめられた身体は熱を閉じこめたまま、ビクッビクッと震え、強い射精感に包まれた。
 その拍子に、収縮運動を繰り返す内部が、銜えたものをぎゅっと絞り込む。
 由徳の動きがとまった。耐えるように、息を継ぐ。
「とも、はじめて、うしろだけで、イッたな」
 絶え絶えの言葉に、友実はなんのことかと閉じていた瞳を開けた。ぼやけた視界をぱちぱち瞬きすると、涙の雫が目尻からこぼれた。
「あと、ちょっと、緩めて」
 理性を集めて、緩める、という単語の意味に気がついても、どうやって緩めるのかやり方がわからなかった。翻弄され、基礎的なことが抜け落ちている。完全に混乱しているのだ。
「えっ、……っん」
 困惑した表情で身じろぐのが見えた由徳は、大きい一波をどうにか理性で飲み込んだ。
 しかしながら、このまま抜き差しを再開すれば、確実に中へ射精してしまうだろう。だがそれは一番負担も大きいし、始末も大変になる。
 はじめて挿入だけでイッてくれたのは嬉しい。そのまま自分も彼の中で果てたい。でも、彼に負荷はかけたくない。
 助けを求めるような眼差しで、友実の手が動いた。由徳は察して身を前にかがめる。友実が楽になるよう下肢を固定すると、熱がこもる腕が巻きついた。息を吐いても身体があまり弛緩しないとなると、友実の身は相当快感に翻弄されてコントロールできなくなっているのだろう。
 由徳は、あやすようにくちづけた。肌を撫で宥めると、目を薄く開いていた友実がそっと目蓋を下ろす。キスに没頭するようになれば、次第に身も弛緩した。
 そのまままどろむような愛撫を施し続けたいと由徳は思いながらも、我慢の限界すぐそこまできているのに抵抗はできなかった。
 由徳が軽く身体を引くと、友実もそれを察したようで、まわした腕を外した。それでも体温を名残惜しむように由徳の腕を掴む。それが健気な行動に見えて、由徳は身を熱くした。
「ぁん! ぁん! ぁん! あっ、あっ、あ、あああ!」
 絶頂に辿り着くための律動を数度繰り返して、友実の中から一気に引き抜いた。
 白濁が、友実の腹に模様をつくる。由徳は出し切ったことに一息吐いて、友実と自身の精を指で混ぜた。ヒクヒク小刻みに震える腹と胸にくちづけて、友実の熟れたくちびるに顔を寄せる。
 ついばむようなキスを繰り返した。セックス直後のこの瞬間だけは、友実も甘えたい気持ちになるらしく、由徳にキスを求める。頭を撫でて彼の想いを受け止めると、満足した友実が手を離した。
 由徳は身体を起こして立ち上がる。体液が乾く前に後始末をするためのタオルを探すと、テーブルの向かい側にちょうどよいものが落ちていた。即席氷枕のタオルである。それを拾って裸のままキッチンに向かい、水につけた。水の温度は先ほどと変わらないが、ひんやりして心地が良い。友実のところへ戻る途中、エアコンのスイッチを切った。
 部屋には夕暮れの明かりが微かに浸透していた。空は朱の色を群青に染め替えようとしているのだろう。人工の光に頼らずここまで来たせいか、多少暗くなっても周りはよく見えた。友実の裸体もよく見える。汚れた腹や下肢が、同性の身体だというのに甘美に映った。
 由徳は濡れたタオルを友実の肌に押し当てると、事務的に動かした。友実はビクッと身体をわななかせたが、少し経つと、タオルに手を置いた。
「いい、自分でやる」
 友実の言葉に手を離し、由徳は布団の脇に散らばった服を拾って身につけた。上に着るものがないのはどうしてだと考え、水浴びの後上半身裸で生活していたことを思いだした。
 収納ケースから適当にTシャツを取りだして身につける。友実の服も予備としてどこかにあるはずと引き出しをいくつか開ければ、予想通り見つかった。最近常備されているところがすごい。というよりも、友実が収納場所すら占領しているところが我が家ながらすごいと由徳は思う。
 布団のところに戻る前に、部屋の窓をすべて全開にした。エアコンのせいで、外の風が生暖かく感じるが、それも次第に心地よくなじむだろう。換気してくれる風は、微かに秋の気配を感じさせた。今夜は扇風機だけでも十分快適に違いない。
 友実を見れば、裸のままごろごろしていた。主に腰の状態を見ているのだろう。傍にあったグラスも空になっているということは、ほてるような熱は通り過ぎたようである。
 由徳が近づいて服を差し出すと、友実はようやく身体を起こした。
 しゃがんで服を身をつける友実を見ていると、なんだよという表情で友実が顔を向けてきた。情交の名残も甘い雰囲気もすでにない。もう少し余韻に浸っていたかったが、そろそろ空腹が身を急かす。
 切り替えが早すぎる友実の背中を見る。夕暮れ色に重なって、なんだか切なくなってしまった。
「友実は、俺と会うのうれしい? 」
「は? まあ、って今更どうしたんだよ」
 そっけない回答に、由徳もある程度予想はしていたようでダメージは少ないようだ。
「今更だよねー」
 肩を落として呟く由徳に呆れながら、友実はその腕をつかんだ。しゃがんだ体勢だった由徳が崩れて、片手を敷布団につける。
 顔をあげた瞬間に、由徳のくちびるにかすめるようなキスをした。
 劣勢だった由徳が友実に抱きついて押し倒した。ぎゅっとされれば、セックスとは違った甘さが身体に広がる。
「なんか、久しぶりにちゃんと抱きしめた気がする」
 由徳が神妙に呟いた。
「抱きしめられるくらいなら、いくらでも受けてたつぜ」
 友実が笑みを含んで返すと「なんだよそれー」と由徳がぼやいた。だが、まんざらでもないといった表情だということは、今後抱きしめたくなったとかバカなことを理由に呼びだしたり学校で言いだしたりするつもりなのだろう。
 ……まあ、それくらいはいいかも。
 暑苦しさよりも、体温の温かさが身に染みていた。由徳が好きだと、友実は純粋に思った。
 暮れる空は夜に姿を変えてゆく。弱風の扇風機が涼しい風を後押ししながら、近所の夕食献立を教えていた。調理された食べ物の匂いを嗅げば、空腹感が倍増する。
「スーパーでもいくか」
 ぎゅっと横倒しに友実を閉じ込めたままでいた由徳が言った。友実もそれに応え「腹減った」と返す。その言葉を皮切りに抱きしめていた由徳の腕が離れ、「さてと、」と身を起こした。友実も由徳と同様に立ち上がる。
 挿入までしたセックスだったが、受け入れた部分に違和感を残す程度で、今のところ身体に問題のある箇所はない。由徳が窓を閉めている間、友実は軽く伸びをして一、二歩歩いてみる。普通に歩けるようだ。復活も早いとなれば、かなり身体が慣れたということなのだろう。
 由徳が鍵と財布をとって、玄関に向かった。友実もそれに倣う。ドアが開かれ、夜風がやんわりと玄関を抜けた。
「由徳、ちょっとうちんち寄っていいよな? なんか食いもんついでにもらってこようぜ」
 友実がそう口にすると、由徳は「おー、ありがと」と笑んだ。
 外灯の光が往く道を照らし、澄み渡る空が世界を満たす。サンダルを履いた二人は、そのまま夕食の献立について話しながら、地に足をつけた。
 そうして、柔らかにドアが閉じる音がする。




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