* はじまりの雲 *


 二月でもなお変わらずの暑さを誇る沖縄に、高校受験を終えたばかりの私は立っていた。この村の一角に、母親の実家がある。いつもは夏休みにあわせ母方の実家に長期滞在するのだが、今回はかってが違っていた。祖父の訃報が届いたからだ。
 東京の寒さとはまるで違う。広がる空は曇りなく、鮮やかな蒼の彩色だ。その景色の中で、もくもくと一本の白い筋が、先程まで立ち昇っていた。隣にいる母は、昨晩よりも晴々とした表情で太陽に手をかざす。周囲の雰囲気に悲壮感という言葉は一切似合わない。晴れの日だ。
 火葬場で骨だけとなった祖父を親戚中の皆で見た。私は忘れはしないだろう。
 彼らの目は、生前の祖父を見るようにぬくもりに満ちていたこと。そして、「こんな姿になっちゃって」と、祖父がそこにいるかのように談笑をしながら、その遺骨を愛しそうに拾っていたことを。それは私にとって、ひとつの大きな衝撃だった。
 愛する人は骨となってもなお、変わらず愛しいのだ。そんなあたりまえのことを思い知った。そして、唐突に祖父の死を実感した。
 祖父はもう、この世にはいない。
 けれども、祖父は、永遠に皆に愛され続けるのだ。
 すでに消えた煙を思い出すように、私も母の見上げる空を見た。遠くで、飛行機雲が海を渡っていく。私は、愛しい人へ向け「ありがとう」と、心の中で呟いた。


 死は決して、愛の終焉にはならないのだ。



... back