* 下がり葉の猫、第10話 *


 文乃は控え室に戻ってから、五分は座ったまま呆然としていた。茅世が心配したほどだ。皮膚にはライトの熱がまだ少し残っている。
 スポットライトを当てられるというのは、本当に心臓に悪い行為だ。文乃は、すでに幾度繰り返したかわからない言葉を心の中でつぶやいた。疲労感が一気に噴出していた。
 新婦の佐織が懇願していたとおり、文乃は彼女とともに入場した。スポットライトを浴びた状態で、司会者が話す自分の紹介話を耳にしたが、気持ちが追いついて来なかった。着付けと煎茶道の教室を開いていて、新婦の佐織さんが通っている云々を言っていた気がしているが、よく覚えていないのである。控えめな笑みを張り付けて、一礼のつもりが三度ほどお辞儀を重ねて戻ってきたようだと文乃は振り返る。自分のしていた行為すらあやふやなのだ。
 あのときの文乃は、望みもしない披露宴の主役になってしまっていた。お色直し作業前に煎茶道教室の生徒である宮村と会っていたが、彼女もそうした文乃を姿をテーブル席から見たはずだ。元から、遭遇回避不可能だったということである。
「文乃、パイナップル食べたい」
 華やかなコーナーが続く披露宴の中で、茅世が文乃にそう言った。彼女たちは控え室で短い休憩を終えた後、一時的に披露宴会場へ戻ってきていた。新婦を飾る大振り袖の具合を確認しておきたかったからだ。遠くから見たスポットライトの花嫁は、ドレスのときよりも格段に映えている。着物の柄もよく似合っていた。佐織の祖母と母親が大切にしていた大振り袖は、呉服屋で仕立てあげたもので、見るからに値打ちある品だったのだ。少しながら金糸まで使用している。
 一方、同席の人たちは文乃の素性を知り、愛想が格段にあがっている。文乃は曖昧な笑みで披露宴にまつわる考えごとを続けていたのだった。
「文乃、聞こえてる?」
「あ、はいはい。ごめんね茅世。今お皿に盛るわね」
 卓の中央にフルーツの大皿がある。文乃は言われるがまま、パイナップルを取り分け茅世に渡した。自身も数種の果物を小皿に乗せる。パイナップルを食べていた茅世が、文乃の皿に乗る果物も食べたいと言いだした。そう思っていたのだから、先に取り乗せたのだ。
 腕時計を見れば、最後のお色直しに近づいている。茅世がフルーツを食べたら、もう一度控え室に戻ることにした。
「茅世、もういい? ごめんね。また出るわよ」
 大振り袖を眺めながら果物を食べ終えた茅世に、文乃は声をかける。わかった、と答えた茅世が素直に椅子から降りた。同テーブルの何人かが、なんと聞き分けの良い子なんだろうという目で彼女を見ている。そのとおり、五歳児の体型にしては異常に聞き分けが良い。文乃もそう思う。しかし、茅世の中身は五歳児の子どもと違うのだ。大人でもない。成猫だった、としか言いようがない。
 文乃たちは新婦用の控え室に戻り、片付けられるものから手をつける。同室にいたスタッフが、そうした文乃に声をかけた。部屋を任せていいかを尋ねてきて、文乃は快く承諾した。二人きりになった部屋は気楽だ。文乃は、住んでいる家に郵送するものを分けて畳敷きの端に寄せた。茅世は純白のウェデングドレスの傍らで、その色彩を熱心に見ている。どれだけ見ても、その色は白だ。
「茅世は、ドレスのほうが好き?」
 大振り袖に大きな反応が見られないため、文乃はつい訊いてみたくなった。洋服姿でドレスばかりに気をとられている茅世を見ると、なにか寂しい気持ちになる。和服より洋服のほうを好きになったのではないかと錯覚してしまう。
「着物も好きだよ。でも、ドレスのほうが不思議なの」
 彼女は不思議という言葉を使った。質感やつくりがおもしろいということなのだろうか。
「じゃあ、茅世は結婚式のとき、ドレスと着物、どっちがいい?」
 元猫の茅世に結婚式のとき、と、たとえるのは変ではあるとわかりつつも、文乃はそう続ける。
「茅世が結婚、」
 はじめて問われた言葉に案の定、茅世が戸惑った。今まで訊かれもしなかった問いなのだろう。しかし、彼女の回答は早かった。
「着物のほうがいいな」
 やはり、着るならば和装なのだ。文乃は手を止めて考えてみた。茅世の白無垢姿である。ドレスよりも似合うに違いない。しかし、想像するのは子ども姿の茅世だ。大人の姿は想像できない。むしろ、大きな耳と尻尾の対処に気がとられてしまう。耳を隠すのならば、角隠しは最適だ。
 おかしな発想へ行き着いたところで、控え室の廊下から人の声が近づいてきた。最後のお色直しの時間となったのだ。披露宴の主役は、部屋に入ってきたと同時に文乃を見た。
「文乃先生、本当にありがとうございました。そして、ご無理をさせて、すいませんでした」
 文乃に一瞬主役の座を譲った、あのスポットライトを浴びた件だ。文乃は心の中で、すでに半分消去しようとしていた話である。
「いえいえ、大丈夫ですよ」
 佐織を安心させるような科白を紡ぐ。実際に終わってしまったことだし、怒っていても仕方がない。佐織は文乃の言葉に、もう一度深くお礼を言った。
「先生のお心づかいに、本当に感謝しています」
「本当に、気になさらないでください。さあ、着替えましょう」
 明るい声をだして文乃は着物の裾を持った。花嫁が畳に上ってすぐ、大振り袖を脱がす作業に入る。着付けは念入りにするため時間を要するが、脱ぐときはあっという間だ。補正下着を着けた佐織が、次は紅色のドレスに染まる。文乃が片付けをはじめている間、茅世は佐織のすぐ近くで進められる行程を、ぽっかり口を開けたまま見つめている。スタッフたちに、この子は仕事の邪魔をしない安全な子だと判断されたようだ。着付け鑑賞に熱心な様子は皆の気持ちを和ませるものになっていた。茅世はこれですべての衣装を間近で見たこととなった。
「今日はありがとうございました。それでは、行ってきます」
 出て行く佐織が二人に声をかけた。茅世は「行ってらっしゃい」と返す。佐織にすっかり慣れてしまったようだ。茅世の声聞いた彼女は、軽く手を振って場を離れていく。
 文乃の仕事は大方これで終了となった。後はスタッフとともに使用した着物その他の片づけと郵送をお願いするだけだ。最後のお色直しを終えた会場では、先週の休日に行なったという大きな神社での神前式の模様をフィルムを使って紹介するという段取りも聞いている。手早く片付けて見に行こうとも考えて、茅世を見る。
「茅世、ねえ、茅世、」
 彼女は近間の椅子に座って、ゆらゆら船を漕いでいた。文乃の言葉にハッと顔を向ける。早くも睡魔に襲われているようだ。家ではいつも昼寝の時間を設けているが、今日は初の外出でそれどころではなかったのである。
「眠いの?」
「うん。ねむい……」
「こっちの畳に来なさい。横になれるから」
 その言葉に茅世がふらふらと畳間へ向かう。靴を脱ぎ、文乃の傍で横になった。文乃が脱がれた靴を揃えて茅世を見る。
「ねむいの……」
「少し寝てていいわよ。私はまだ片づけものがあるから」
 その様子を見ていたスタッフが、タオルでも持ってきましょうかと訊いてくれる。文乃はその申し出を恐縮しながらお願いした。
 披露宴は、すでに予定時刻から三〇分押して続いている。二次会の兼ね合いもあって、これ以上延びることはないだろう。下手をすれば巻いて予定終了時刻に終える可能性もあった。文乃は熟睡に入った茅世を置いて、スタッフとともに片づけのため控え室を何度も出入りした。おそらく、披露宴会場には終了時まで戻らない。終了間際、新郎新婦その他が披露宴外へでて、個別の挨拶を行なう。そのときに戻って、彼らに挨拶をしてから会場を離れるのだ。一度顔を見せなければ、佐織たちが心配するだろう。晴れの日に主役たちを不安に陥れるようなことは絶対にしたくない。
 スタッフと相談しながら郵送の支度を終え、文乃は控え室に戻った。畳の上には文乃宛とその他の郵送物、文乃の肩掛けバッグ、そして茅世が二枚のタオルケットの中で眠っている。披露宴用のポーチやショールは、すでに文乃宅へ送る郵送物の中にしまった。帰る準備は万全である。
 茅世の眠る畳へ、文乃は腰をかけた。本日仕事をした時間自体はいつもの教室開講日と変わらない。しかし、気のつかいようがまったく違っていた。うっかりため息とともに「疲れた」と、つぶやいてしまいそうなくらいだった。仕事していた頃の目まぐるしさを少し思い出す。まだ、この仕事は内容自体がポジティブだったのだからいい。文乃の心までポジティブになりきれないのは、文乃自身が先の読めない未来を結婚式と比較してしまうからであるのと、佐織の親を見て複雑な心境を得るからだ。きっと、どこかで佐織が羨ましいのだろう。
 そうした自分を慰めるように、文乃は茅世を見た。寝息を立てて眠る様子を眺めていれば、表情の曇りがとれていった。ワンピース姿を目に何度も焼き付ける。茅世に対する周囲の反応は上々だった。茅世は大きな耳と尻尾さえ隠せば、人間に受け入れられる存在なのだ。文乃は、自分が愛するものが人々に受け入れられたことに、心から安堵していた。茅世も、この結婚式をおおいに楽しんでいた。本当はもう少し披露宴会場に長居していたほうが、さらに彼女を喜ばせることができたのかもしれない。出たり入ったりを何度も繰り返してしまったから、茅世にとってもめまぐるしかっただろう。
 文乃はバッグを寄せて、携帯電話を取り出した。プライベート用と仕事用の双方、切っていた電源をつける。画面には特に連絡がはいったという表示はなかった。マナーモードにしてバッグへ戻していると、控え室へ会場のスタッフが戻ってきた。ドアだけを開けたところを見ると、人がいるかを確認しに来ただけのようだ。彼女は文乃の姿をすぐにとらえて声をかけた。
「おつかれさまです。まもなく披露宴の最後の挨拶となりますので」
「わかりました、向かいます」
 微笑んで伝えれば、彼女もちいさく会釈してドアを閉じる。数人のスタッフと仕事をともにしたが、今の彼女は茅世にタオルケットを持ってきた、一番気の利く人だった。そして、茅世の頭に深々と被された帽子を取らないのかと指摘して来た唯一の人でもあった。寝るときくらい帽子を取ったほうがいいのではないか、という親切に、文乃は申し訳なく思いつつも「この子は、この帽子がお気に入りみたいで」と言葉を返していた。やはり、ずっと帽子を被って外で生活するには限界がある。今回は、指摘が一度だっただけラッキーなのだ。
 手首につけた腕時計を見る。そろそろ会場出入り口に近づいたほうがいいだろう。佐織たちと手短に言葉を交わして帰るのだ。後日、佐織とは会えるのだから会話に時間を割く必要はない。
「茅世、茅世、」
 ワンピース姿の彼女を手で揺り起こした。茅世は寝起きがとてもいい。むくりと身体を起こして、茅世がパチリと目を開けた。
「あれ、おうちじゃない」
 寝ぼけた発言をしていた。外出がはじめてならば、外で昼寝したのもはじめてのことだ。景色が違ったせいで、つぶやいたのだろう。
「結婚式の披露宴会場よ。茅世、ごめんね、そろそろ帰る時間のなの」
「そうだ、結婚式。終わり?」
「そう、もう終わりよ。ドレス見足りなかった?」
 終わってしまうことで何か不満が見つかったのかもしれないと、文乃が問えば茅世は首を横に振った。
「ううん、キレイなのたくさん見たから、おなかいっぱい」
 そう言って、思い出したように目をきらめかせる。文乃は微笑んで立ち上がった。
「タオルは畳んで置いて、さあ出ましょう」
 茅世が起きあがって、ストレッチをするように手を広げタオルケットを畳む。もう一枚をすでに畳み終えた文乃が、必要な荷物を手にして茅世を見た。彼女はタオルケットを文乃が畳んだものの上に置いて、畳を降り靴を履いた。いつも履く草履ではないから少しもたつく。
 二人連れだって控え室を離れた。会場近くまで行けば、出入り口付近で準備をする佐織の親族がいる。顔を知られている文乃は、少し離れたところで茅世と雑談を続け、新郎新婦がやってきてから会場出入り口に近づく。引き出物が渡される列に加わった。本当にこうしたものを受け取る気はないのだが、もらっておかなければ先方にまた余計な気をつかうことになるのだから仕方ない。順番が来る前に、佐織の視線をもらった。
 手をつないだ茅世と、新郎新婦と家族の前に立つ。新郎を間近で見たが、遠くから見た印象とあまり変わらない。案外押しの強い佐織に背中を押されたいタイプなのがにじみでていた。春頃から一緒に暮らしていたというのだから、今後夫婦になってもうまくいくのだろう。
 文乃の素性は佐織のおかげもあって全員によく知られていた。他参加者よりも深々と挨拶してくる。文乃は正直戸惑ったものの、丁寧に言葉を返した。
「ご結婚おめでとうございます。こちらこそ、素敵な披露宴のお手伝いに携われてとても光栄でした。お二方の幸せを心よりお祈りしております」
 この度は本当にありがとうございました、と、佐織の母親が礼を言う。茅世も佐織たちに今日はありがとうと声をかけられ、「キレイな結婚式ありがとうございました」と返す。その姿に「本当に良い子ねえ」という感心の声が彼女の母親からもれた。茅世はそれに不思議そうな顔をしている。本人にとっては、自然なことで褒められるようなことでもないのだ。
「文乃先生、本日は本当にありがとうございました。近いうちにまた連絡しますから」
 佐織が締めくくった言葉に、文乃は了解して受け取った引き出物とともにお辞儀した。場を離れ、茅世にあらかじめ持ってきていたブレザーを着せて、自身も上着を羽織る。会場の外に出れば開放的な気持ちになった。
 太陽が傾いている。真っ暗になるまでに、また駅からタクシーを使って帰宅したいが、茅世との最後かもしれない外出をこのまま終わらせるのは惜しい気がした。
「どこかこの近くで、お茶しない? どう、茅世」
 この会場から駅までは徒歩で二〇分ほどかかる。それまでに、いくつかカフェを見た。チェーン店でもかまわないから、一息つきたかった。
「うん、茅世、あったかい飲みもの飲みたい」
「したら駅までの歩きがてら、入ろうね」
 行きに通った道を歩きながら、茅世の好みでカフェを決めた。チェーン店だが、禁煙者に配慮した店内に文乃もオーケーを出した。入店すぐに端の席を確保して上着を置く。二人でレジまで行き、ハーブティーとミルクティーをオーダーする。茅世はプリンを追加して頼んだ。
 肌寒さから窓ガラスから遠い席を選んだが、暮れていこうとする世界はよく見えていた。明日は日曜日でなにも予定は入っていない。前日から準備をしていた関係で、後回しにしていたことがらを明日片づける予定だ。翌週はいつもどおり祭日関係ないスケジュールが続く。むしろ日を振り替えた煎茶道教室があることから、翌週の仕事は増えていた。自由業の文乃は、より時間を有効に使わなければいけない立場だ。
 ワンピースの茅世が、向かいの席でプリンをおいしそうに食べてはじめた。来週はプリンをつくるのもありかもしれないと文乃は思った。スタンダードなものと、抹茶を使ったもの2タイプをつくろう。茅世の姿を見ていると、自分の幼い頃を思い出す。よく父親とプリンづくりをしていた。仕事で忙しい彼が、子どもと接する一番ベストな方法だと思っていたのだろう。彼が使用していたものは、今思えば市販のプリンづくりの粉だ。それと卵を使ってつくる簡単なものだった。
 母親もつくっていたが、彼女の場合は市販のものに頼らない本格的なものである。味は、料理が得意な母親のもののほうが美味しいと保証できる。しかし、文乃には父親とつくった市販のプリンのほうが忘れられない。本当に美味しかったのだ。きっと、父親と一緒につくったからだろう。
 その両親と祖母が住む家は、この駅から二駅先だった。文乃が今住んでいる家より格段に近かった。ついでに実家へ寄るという選択肢もつくれたのだ。文乃はここに来て気づく。茅世が、彼らの会うことを望んでいるかもしれないのだ。茅世は文乃だけの存在に頼って育ったわけではない。猫だった頃に文乃と同様、両親にもかわいがられていたのだ。事前に茅世と話し合って対策を決めておけば、親も快く茅世のことを受け入れてくれるだろう。
「ねえ、茅世、」
 神妙な口調で声をかけられた茅世が、なにごとだろうと顔をあげた。プリンを食べ終わって、ミルクティーが冷めるのを待っている。
「前の家が、ここからとても近いけど……ママとパパに会いたい?」
 文乃は口にして、慌てて周囲を見た。人型の茅世に「ママとパパに会いたいか」などと訊くのは、まるで複雑な家庭環境であることを示しているように感じられたからだ。カフェには人が多くいたが、文乃の問いに反応した部外者はいなかったようだ。
「会わない。茅世は、文乃がいいって決めてるよ」
 文乃が周囲を気にしている中で、茅世がそう応えた。返答は常に真っ直ぐだった。彼女の意志は固いのに、何度も訊いてしまうのは文乃ばかりだ。
「そうだよね。ごめんね、茅世」
 茅世が珍しく顔をしかめた。あまり表にしないことだが、茅世は時おり気分を害した表情をすることがあった。そのときの彼女は、ひどく大人びたように見えるから不思議だ。文乃は再三訊いてしまっている問いに、堪忍袋の緒が切れたのかと茅世を見る。もう一度謝ろうとした。
「今日の文乃は、ごめんね、ばっかり」
 茅世がそう言った。ゴクリとミルクティーを飲む。文乃は言いそうになった言葉を飲み込んだ。彼女が気分を害している意味に気づいたからだ。思えば披露宴の間、たくさん謝りの言葉を茅世に送っていた。「ありがとう」と言えるべき場所でも、「ごめんね」を使っていた。まるで働いていた頃に戻ったようだった。
 感謝ではなく恐縮を感じていた。茅世と出会った頃まで口癖だった「すみません」「ごめんなさい」を、「ありがとう」に変えてくれたのは、間違いなく茅世だったのだ。文乃は、彼女の存在にそこから強く感謝するようになった。茅世が常に自分を必要としてくれることを、感謝しなければならない。
「茅世、今日はありがとう」
 文乃が少しの間で、茅世への感謝を思い出した。思い出させてくれた感謝を、言葉にした。
 ミルクティーの飲み干した茅世が、口元を緩めていた。
「茅世は、ありがとうって言葉のほうが、キレイで好きなんだよ」
 ありがとう、文乃。そう微笑んだ茅世を抱きしめたくなって、「早くおうちに帰ろうか」と、文乃は茅世に問いかけていた。



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