* 下がり葉の猫、第16話 *


「フミちゃんの稽古は、いつからなのかね?」
 そう食事をはじめながら切り出したのは、祖母だった。彼女は意図なく訊いたのだが、母親が文乃の近況に対して質問を重ねやすい状況をつくった。文乃はそれを阻止すべくはっきり応えた。
「お稽古は来週からよ、おばあちゃん。それとね、年末から知り合いの人からカフェの新店舗企画の話が来て、携わることになったの」
 多忙になると言わなくても、今年から忙しいことが両親にも伝わったのだろう。母親が疑問を持ったようだ。
「あら、なんでカフェの?」
「和をモチーフにしたカフェで、煎茶道とか着物とかいろいろ取り入れたいみたいで、アドバイスがほしいみたい。しっかりしたところよ。ちゃんと契約書類もつくったし、今年からいろいろ忙しくなるかな」
 自立してうまくいっているように伝えなければ、また見合いの話が持ち込まれるかも知れない。まだカフェの企画はひとつも進んでいないが、おおげさに説明する。父親も祖母も好感触で「ちゃんとしているところなら、文乃の経験も生かせるしおもしろいそうじゃない」という言葉をもらった。
 これから忙しくなるのは本当だ。しかも、早速明日の午後から湯川親子と会うことが決まっている。新店舗のオープンまで時間がないのだ。しかし、明日から企画に携わるとは言えない。年始をほぼ休まずカフェ事業に携わるとなれば、家族はすぐ多忙と過労を心配するからだ。以前文乃が働いていた会社の忙殺ぶりを、彼らは知っている。家族を心配させず穏便に話を進める舵取りは難しい。文乃は出会った経緯や、新店舗の話を続けた。
 年末は大まかな開店までのスケジュールの取り決めと、改装をはじめたばかりの新店舗の見学、パティシエとバイト中心の店員たちの紹介で終了した。新店舗は話のとおり、鉄道の乗り換えによく利用される駅の近くにあり、文乃にとっては現状のカフェより行きやすい立地だった。駅の乗り入れ口は利用者が少ないほうに寄っているものの、大学が通り道の先にある。平日も若者が案外通行する界隈だ。
 カフェの看板パティシエである晴海のことは、会う前から母親でもある湯川マスターや他の知る面々から聞いていた。彼は基本的に人懐っこく外国人にも物怖じしない性格だが、物事にこだわり出すと人の話を聞かない。気になった点については、人を質問攻めにするところがある。大方彼らの印象はそのような感じであった。
 そして、実際に会った晴海はまさにそのとおりの性格だった。文乃のことは、彼の中ですっかり「おいしいようかんがつくれる人」になっていたようで、出会った瞬間からようかんのレシピに関する質問攻めにあった。母親の湯川がすぐに阻止したが、文乃の趣味がお菓子づくりだと知れば、子どものように興味津々の目で文乃を見ていたのである。新店舗カフェの話し合いをそっちのけて、お菓子レシピの話をする機会を伺っていたらしい。湯川が「晴海、大人げないからヤメテ」と、母親らしく声を荒げたほどだ。人当たりはいいが、癖のある性格に間違いないだろう。
 その様子に彼女は苦笑しつつも、嫌みなくはっきりイエス、ノーの言うところは好ましかった。根が素直なのだろう。パティシエ晴海の雰囲気は、文乃の弟によく似ていた。文乃の弟である友紀も、幼いときから物事にこだわる性格で、化学系企業の研究員におさまっている。
 湯川よりも晴海とやり取りすることのほうが多くなるのかも知れないと、彼の様子を見て思った。文乃もパティシエの業に興味がある。晴海のうまく操縦するのは湯川の役目になるのかもしれない。大変そうだが、晴海に会って楽しみは増していた。晴海もそうなのだろう。彼からワクワク感が伝染してきたのだ。
「いいんじゃない。でも、無理はしちゃだめよ」
 母親も文乃の話を聞いて、そう感想を述べた。
「無理はしないよ」
 会社員時代に多忙を極めた日々を送っていた文乃を、母親は傍で見ている。終電で帰る日々が本当に長く続いたのだ。文乃が仕事を辞めたいといったときにも、彼女は反対しなかった。当時は祖母のこともあって、母親も大変だったろう。今はお互い会話にも余裕がある。文乃が実家を離れなければ、取り戻せなかった心の余裕だ。
「それにしても、パティシエさんの性格が友紀みたいなのね。彼のお母さんも苦労したでしょうねえ」
 癖のある息子に振り回されたことがある文乃の母親が、湯川に同情していた。
「あいつは、たまに何考えてんだかわからんときがあるな」
「あら、パパ。この子はあのまんまよ」
「お父さんと友紀は性格が正反対だからね」
 親子の会話から、次第に話題は少しずつ文乃にまつわるところから離れていく。母親は当分文乃の私生活にタッチしないだろう。生活に進展があったことを、良いこととして認めてくれたのだ。
 今後どうなっていくのかより、まずこの二月までのことに本腰をいれなければならない。先行きには不安もある。茅世のこともある。今は五里霧中だ。自分の選んだ道が正しいのか、いまだに自問自答するときがある。
 そうした文乃の話を聞いてくれる数少ない相手が友人の由実子だった。本当は大晦日にそうした話もしたかったのだ。しかし、由実子が酒に飲まれてしまったために叶わなくなった。
 カフェの話が本格的に進んでから、一度由実子に会うなり電話するなりしてみようと文乃は思った。明確なアドバイスや回答がほしいわけではない。ただ聞いてほしいのだ。それを由実子はちゃんと理解している。由実子の身の上話も聞いていておもしろいのだから、うまい具合にできている。
 電話したときは大晦日の話も小出しにして少し苛めてやろう。文乃は、とりあえず後でメールを打つことにした。雪の影響さえなければ、北陸の実家の自室で熟睡している頃だろう。同時に、茅世にも携帯電話を持たせるのもいいかもと文乃は一瞬だけ考えた。しかしこれは一生叶わないはずだ。茅世は本気で嫌がることは目に見えているのである。



 一月は、晴れと雨降りの日を繰り返した。みぞれから雪になることもあって、茅世が目を輝かせて上階のベランダに飛び出したのは二度だ。去年の冬も雪の日だけは茅世が好んで屋外に出ようとしていたことを、文乃はすっかり忘れていた。茅世は寒さが嫌いで家の外や情景に興味を持たない子だが、雪という現象だけは別だった。
「結婚式の白いドレスみたい」
 低木にうっすら乗る雪の層を眺めながら、茅世が窓の側で頬杖をつく。彼女は去年間近で見たドレスの裾を思い描いていたのだろう。輝く白は、佐織の結婚式で見たウェディングドレスに近い。茅世にとって、寒さを吹き飛ばす美しい色彩なのだ。
 数日前の彼女がそうした素振りで雪を見ていたのだから、今頃早く雪が降らないかと、留守番中の茅世はそわそわしているに違いない。昼に見たテレビの天気予報で、今夜は雪が降ると予想されたからだ。雪のマークが映れば、文乃とともにコタツで早めの食事をしていた茅世は、箸を止めてテレビに見入っていたのである。
 夕刻を過ぎた空を文乃は窓から見つめた。辺りはすでに暗い。平日の午後五時を少しすぎたカフェは閑散としていた。夜に雪が降るという予報で、普段に比べて人の入りが少ない。一人で長時間物書きをしている人や小型のパソコンに向かっている人がいて、あとは女性二人組がいる程度だ。先ほどまでソファ席で大学生らしき三人組が会話で盛り上がっていた。
 文乃は特等席にもなりはじめたカフェの一席で、カフェのオーナーである湯川と対峙していた。新店舗のカフェオープンまで残り半月となった。
 カフェのオープンは二月の十一日、現存のカフェはバレンタインウィークとなり、同時期にイベントが重なる。そうでなくても、現行の仕事に加えて各々が企画に参加しているのだから、師走を抜けても忙しさは続いていた。二月のオープン以降はまた別種の忙しさに変わるのだろう。オーナーはそれをすでに念頭に入れて、十二月からバイト店員を増やしていた。二月以降は今のバイトチームから二人が新店舗に移動する予定だ。
「ご飯ものは、これでいいかしらね。すると、食器を大きいお椀が新たに二種類いるわけか」
 湯川がペンで丸をつけた料理を、別用紙に書いてそう言った。
「そうですね。ご飯はすべておにぎりにしてだすとしても、お味噌汁用のお椀も必要ですね。場所取りになってしまいますか」
「いえ、大丈夫でしょう。キッチンはパティシエが占領していない分広いし、」
 手を止めず文字にされていく料理名は豚汁と水菜やおくら、大根などを使用するサラダセット、そして日替わりのランチである。元がカフェメインの店だから、食べ物の種類は少なくてもかまわない。重要なのは場の雰囲気と飲み物とスイーツだ。
 カフェの改装工事はほぼ終わり、店内の飾り付けはオーナーたちのできるまでになった。来週からは本格的に細かいインテリアの配置に移る。文乃はこの店舗へ何度も足を運んでいる。湯川のセンスは悪くなく、内装の助言についてはほとんど携わっていない。
 内部は、純和風というより少しモダンな感じになるようだ。二スを濃く塗った深い茶色の木材は壁や家具に使われ、アンティークな装いをみせている。まるで欧米人が古いカントリー調の家を和風に変えたような雰囲気で暖かみがあった。現行の白を多用したカフェとは色彩がまったく違うが、どこか不思議と印象が似ている。
 間接照明や室内を演出する小道具は、湯川の指揮の下でほぼ揃えて新店舗に置いている。月曜日は常に新店舗のインテリアの決定で終始した。食器や茶器を揃えることもそれに関連して、早い間に使用するものを決めている。現行のカフェから持っていくものもいくつかあるものの、洋物と和物では、使う茶器から変わってくるのだ。
 新店舗がまかなうお茶はほぼ日本茶のみだ。煎茶とほうじ茶、玄米茶、番茶にジャスミン茶である。煎茶は茶葉を産地別に随時三種揃えることにした。宇治茶ならば、文乃が家族とともに利用している本舗があるので、文乃が半分は担当することで湯川も了承した。ハーブティーの調合が得意な湯川マスターなのだから、お茶には力を入れたいのだろう。それもあったからこそ、文乃を企画版に加えたのだ。
 カフェという名前上、一応コーヒーもメニュー上には置くが、たんぽぽ根のコーヒーも揃えることにした。食事と本格和菓子には麦茶がつく。パティシエの管轄外ですでに決めた和菓子は、抹茶寒天と栗甘露のあんみつに数量限定の三種ミニおはぎだ。夏は冷やしぜんざいと梅酒をはじめるのもいいだろうという話になっている。麦茶とコーヒー以外のお茶はすべて差し湯付きだ。茶受けサービスでに五粒の金平糖がつく。
 新店舗は使う茶器の種類が多くなってしまうが、和風を貫くのならば仕方ないことだ。湯川はそのあたりをある程度念頭に入れていたようで、キッチンの食器棚も広めにつくっている。
 順調かと訊かれればそのとおりと言えるのかもしれないが、実際は湯川側が妥協した節もあるし、文乃の負担が知らぬ間に増えていることも事実だ。
 年始は話し合いよりも先に、お互いの持っている基礎知識の体得からはじまった。文乃は湯川親子を自宅に招いて、着付けと煎茶道のお手前を見せた。彼女らは店員の制服を着物することと、玉露をメニューに入れたいと考えていたようだが、文乃から仕入れた体験から、それはかなり難しいということを知ってしまったようだ。
 こだわりたかった部分が現実には厳しい。それは、本人たちにとってとてもショックだったようで、文乃は彼らの気持ちをくむべく悩んだものだ。本当は文乃も、店員は着物で給仕してほしいと思っている。しかし、バイト店員は毎日フルタイムで働くわけでもなく、興味がないかかぎりは毎度手間のかかる着物を着たがらないだろう。文乃が着付けを手伝うにも、さすがに限界があった。現代の生活から和装はかけ離れてしまっているのだ。改めて突きつけられたことは、和服を愛する文乃にとってもショックだったが、こればかりはどうしようもない。制服に関しては、中途半端な和装を着るくらいならば洋装のほうがいいだろうという結論に収まっている。その代わり、夏は浴衣を採用することになった。
 一方、文乃も新店舗がオープンするまで、現行のカフェで週に一度、給仕にあたる店員の仕事に就いている。文乃はカフェのような飲食店の接客業を一度も体験したことがなかった。湯川側も自分たちのしている仕事を知った上でアドバイスしてほしいと考えたのだろう。実際に客としてカフェにいるより、従業員として中にいたほうが物事の段取りは数倍よくわかる。会社で働くのとも教室で先生をしするのとも違う気づかいが必要で、文乃にはとても新鮮な経験だ。
 同時に慣れないことに携わっているためか、疲れを感じるのも早い。茅世に構う余裕もなく就寝してしまうことがあった。起床後すぐ茅世を探せば、コタツの中で熟睡している、ということも一度や二度ではない。第一、冬の茅世は寝室よりもコタツの中で寝ている時間のほうが長い。最近は食事時と風呂に一緒に入るときに茅世と会話している記憶ばかりが目立っていた。罪悪感はあるが、茅世は今の状況にもマイペースな方針を貫いている。文乃は茅世に、何か不満があれば遠慮なく言ってね、と先に伝えて仕事を優先することにしていた。
「メニューはパティシエの分がでてきたら、お品書きの清書のほう、よろしくお願いします。けっこうな量になっちゃうけれど」
「大丈夫です。十二冊くらいですよね」
「そうね。メニューは席数分いるものではないし」
 湯川から問われた追加の仕事も、先週了承している。アルバムに似たメニュー表で、既存のカフェと同じで手作り感を出すのだ。パステル色に近い和紙に写真を張り、筆ペンで縦書きのタイトルと値段を添える。一枚ずつ取り外しができるようにするのは、メニューの品が替えやすくするためだ。縦文字の筆記が得意な文乃は、自らこの役をかってでた。仕事を自分で増やしたようなものだが、こうした手作りは楽しい。メニュー表のキットは、新店舗から戻る途中、湯川と一緒に大型文具店を見に行って決めた。
 メニュー表の仕事は家に持参する予定だ。書き方と仕上げ方は、湯川と二人でつくった見本のとおりに行なう。面倒よりも楽しいと思える仕事だ。
 しかし、パティシエがメニューを確定させないかぎり、メニュー表づくりははじめられない。和洋菓子の試作はパティシエと文乃が中心となっている。帰宅が遅くなるのはいつも彼との話し合いのときだった。パティシエの晴海が文乃を離さないのではなく、お互いお菓子づくりが好きなもの同士、話がとまらないのだ。二人を止めるのは湯川の仕事になっていた。
 パティシエとは、どういう傾向のお菓子を提供するか相談している。すべて本格的な和菓子にするのは面白味に欠けているし、彼は洋菓子職人だ。和菓子の材料を洋菓子に応用する方法を二人で考えた。時には湯川マスターも加わり、文乃はメールでカフェ店舗に詳しい由実子に「こういうケーキやお菓子はどう思うか」と、客としての感覚をもらう。パティシエはそれらを基に試作が続け、すでにマカロン三種の販売を決めた。味は黒ごまベースで白ごまクリームのものと、うぐいす粉ベースできな粉クリーム、シナモン地で小豆クリームを使っているものである。マカロンで余る黄身をかぽちゃプティングに活用する。残りは彼のメイン仕事になっているロールケーキと、シフォンケーキだ。文乃は、米粉を使ってみることを提案した。既存のカフェと新店舗カフェに良い線引きができると考えたのだ。
「この清書は文乃先生に渡すもので、それで、二月のオープン日の翌週からだけど、月曜日は定休日になるから日曜日に来ていただきたいの。大丈夫?」
 文乃に今しがた書いた紙を渡し、残りの紙を束ねながら湯川が訊く。彼女に敬語を使ってもらうのは文乃側からお願いしてやめてもらっているのだが、先生という敬称は外せないようだ。反対にパテイシエの晴海は、さん付けで呼んでいる。
「はい、大丈夫です。日曜日はお稽古ごとが元々入っていない日なので。すると、火曜と土曜の午後からと、金曜、日曜でいいですか」
「そう、その方向でお願いします」
「オープン後の服装は、和服のままでいいのでしょうか」
 今も着物の文乃である。土曜日のカフェ店員勤めでは洋装にしているが、普段は和装のままのほうがいいと湯川たちから言われていた。湯川としては、新店舗のカ開店告知を既存カフェ内ではじめている関係で、良い宣伝になると考えているようだ。一方の晴海や他の店員は、洋装よりも和装のほうが文乃にしっくり来ると語っていた。文乃イコール着物という構図がすでに定着してしまっていた。
「オープン後も、着物のままで是非お願いします。文乃先生の助言で、物事が着実に動いていて少しずつだけと安心するわ」
「いえいえ、とんでもないです。こちらこそ手助けできて光栄です。まだまだこれからですし」
 文乃が湯川の言葉に恐縮すれば、彼女は「そうね」と朗らかに返す。
「確かに、これからが本番よね。お互いがんばりましょうか。その前に、パティシエはまだかしら」
 オーナーの顔でキッチンのほうを向けば、白い制服姿の晴海が皿を持ってキッチンから出てきた。いくつかの客から視線を受ける。見たことのないケーキが乗っているからだろう。
「文乃さん、マスター、シフォンケーキの試作第二弾できたよ」
 二人のテーブルの前に着いた彼は、そう言いながら試作のケーキを置いた。シフォンケーキの一カットだ。型は通常よりひとまわりちいさい。
「あら、前よりいい感じじゃない」
 湯川が言うのに、文乃も頷いた。
「少し薄い不思議な色で、飾り付けも素敵」
 桜の葉の上に置かれたシフォンケーキのスポンジは、かすかにピンクの彩色が見られていた。晴海が「それ、桜漬けの色がでたんだよ」と話す。
「あれ、前のも塩抜いた桜漬け入ってなかった? ほんのり塩味もあって」
「でも、きな粉使ってたから大豆っぽい味もしてたんだよ。色も黄色味がかったし。これはきな粉抜き。味はシンプルになったけど、添えたクリームとあんこにあうと思ったんだ。それでクリームの上に、うぐいす粉振りかけてんの。食べてみて」
 彼の言ったとおり、添え物は豆乳クリームとあんこだ。
「桜もちに使う葉の上に乗せて、もちの代わりにシフォンケーキって感じなんだけど、」
 試食を開始した二人にかまわず、余っていた椅子に腰をかけた晴海がしゃべる。桜のシフォンケーキは前回よりもあっさりしていた。あんこの甘さが、シフォンケーキにあう。
「かなりあっさりしてるわね。あんこと日本茶にあわせるから、これくらいのほうがいいのかしら」
「そうですね。洋菓子の甘さが勝ってしまったら、お客さまは皆コーヒーを頼んでしまいますよね」
「確かに。これでいいと思うわよ」
 文乃の発言から、湯川は合点がいったようだ。晴海は文乃を見て「この材料を基本として、もう少し試行錯誤するよ」と言う。そして母親からフォークを奪って、一口食べた。



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