* 柔らかなしとね、第3話 * | |
3. 晩夏の彩りがプツンと途切れた土曜日の朝に、瑞穂は緊張した面もちで玄関を開けた。向かう場所は、瑞穂の家から一時間もかからないところにある。大切な約束が待っているのだ。 朝十時の待ちあわせだったことから、瑞穂は平日の出社時と大差ない時間帯に家を離れた。少し早めに着いておきたかった。心の準備がしたかったということもある。 神秘的な物事に傾倒している理香から、一人のヒーラーを紹介してもらった。今日はそのひとに会いに行く。 人づてのみで前世や未来を視る生業をしているという女性は、理香から教えてもらった電話越しで、自己紹介の間もなく空いている日時を丁寧に提示してくれた。内輪で活動しているそうだが、予約が多く入っているようで、瑞穂が電話をしてから三週間後の土曜日に面会することとなった。それが、今日にあたる。 理香に不思議な末社の話をしてからというもの、瑞穂は日に一度宙に浮いたままの情景を反芻していた。ヒーラーに訊いてみたいことも、三つ目の末社の存在ただ一点だ。瑞穂は自分の前世も未来も、あまり知りたいと思ってはいなかった。そうしたことは、最早どうでもいい。 幼い頃に愛した場所は、なんだったのか。 その答えが今日見つかればいいと願っていた。緊張してしまうのは、彼女から、ない、わからない、と、言われる可能性を考えてしまうせいだ。瑞穂は少なからず良い結果を期待していた。それに、ヒーラーという、特殊な人種と接すること自体がはじめてなのだ。昨夜はあまり寝つけず、遅くまで部屋の掃除に勤しんでしまった。 乗り継いだ地下鉄は、都心から逆方向に進んだせいか人がとても少なかった。指定された駅を降りた瑞穂は、住所を確認するために電話をする。ヒーラーの彼女は連絡を待っていたらしく、静かな口調で住宅街の道案内をしてくれた。 はじめて訪れる地区に興味を抱きながら、指定時間の数分前に青い一軒家前へ辿り着いた。表札には宮川と記されていたが、瑞穂は彼女の本名を知らず、もう一度電話する。リノウという名前しか、理香から聞いていなかったのだ。彼女自身もそのように名乗り、それ以上のことは言わなかった。 「もしもし、さきほど電話した松行ですが、」 つながれた回線の先へ、そう呼びかける。はい、今どちらにいますか、と、静かな声が返ってきた。指定された家の前にいるだろう旨を話せば、家の玄関はすぐに開いた。 黒いワンピースを来た小柄な女性がいた。セミロングで、理香と似たような童顔の持ち主だ。しかし、少し年上に見える。 「おはようございます、松行さん。どうぞ、」 彼女に門扉を開けてもらう。瑞穂は初対面で特殊な能力の持ち主という二点から、少し表情をひきしめて挨拶した。促されるまま家のなかへ入る。比較的築年数の経った家に見えたが、内部は小奇麗にされていた。水晶がいくつも置かれ、布生地のレイアウトとお香のにおいが所帯感を失わせている。 玄関からすぐの、左の間へ通された。 簡素な畳部屋だった。壁は真っ白で不思議な絵が飾られている。焦げ茶色の低い木テーブルの手前と向こう側に四角い青の座蒲団があり、ここが応対の場であることは一目瞭然だった。 黒服の女性は、扉を閉めて奥へ向かった。瑞穂は手前の席に腰を降ろす。テーブルの上には、蝋燭とよくわからない細々したものが隅に置かれている。 リノウという女性が支配している場所に、蝋燭の火がともされた。彼女の手つきを黙ってみていた瑞穂は、無性にこめかみを押さえたくなった。香のにおいがあわないのかもしれない。 「どういったことを、お訊きになりたいんでしょう」 彼女は手を動かしながら、目の前に座る瑞穂へ問いかけた。電話越しと変わらない静かな口調だ。甘さのある顔立ちに、ソプラノの声が際だっている。瑞穂は正座して聴いていた。 訊きたいことは決まっている。しかし、早々に訊いてしまうことへのためらいがあらわれていた。 はじめは理香たちと同じように、前世を訊くべきか、未来……たとえば結婚できるか、仕事は今の調子でいいのか、といった、現実的なことを教えてもらうべきか。ここに来て戸惑ってしまう。 「あの、」 「一番訊いてみたいことが、あるのだと思いますけど」 即席の妥協案を先に持ち出そうとして、瑞穂はすぐ制されてしまった。彼女の口調が少し強くなっている。 瑞穂は、ヒーラーという目の前にいる女性の職業を改めて思い返した。人の過去や未来が視えるのであれば、下手な細工やはぐらかしも見通されているはずだ。 リノウという黒服の女性を見つめる。彼女はなにかを見透かすように、黙って瑞穂を見つめていた。妥協した内容を口にすることを許さない瞳だった。 「……ひとつ、確認したいところがあるんです」 「そのようですね。そこは、どのようなところですか」 瑞穂の言葉で、彼女の口調が元に戻る。ある程度のことは、なにも言わなくても察せる。声色の変化がそれを教えていた。 「あの、子どもの頃の話なんですが、とてもお気に入りの場所があって、神社なんですが、……県とか住所を言ったほうがいいんですか?」 説明をはじめたものの、抽象的な話をどう伝えればいいのかわからない。ヒーラーの彼女は、瑞穂の戸惑いに首を振った。 「いえ、大丈夫です。もし写真があれば嬉しいですが、」 無表情に応えられて、瑞穂は彼女がずっと表情を消していることに気がついた。玄関で出迎えてくれたときは、もう少し柔和な雰囲気だった気がする。能力を使うために集中しているのか。 写真を撮ってくればよかったかもしれないと思ったが、瑞穂の示す神社は新幹線と在来線で二時間以上かかる場所にあり、気軽に写真を取りに行ける場所ではなかった。 「すいません、写真はないですけど……、それでも話だけで大丈夫ですか」 「問題ないですよ。続けてください」 「はい。その神社なんですけど、私の好きな場所だったところがとても不可解なところで、昔はあったはずなのに、先月久しぶりに寄ったら形跡すらなかったんです。末社だったと思うんですが、あった場所に、ないというのは、明らかに奇妙で、」 話を少し進めただけで、自分でも自分の言っていることがわからなくなってきた。あの場所の説明をしようとすると、混乱してくるのだ。ヒーラーという職の人間を前に、瑞穂の鼓動が早くなる。 澄んだ空気とピカピカの石畳、濃い緑に囲まれたあの土地の映像が脳裏に浮かぶ。あの情景を伝えようにも、語彙が足りなすぎてうまく表現できなかった。まるで、言葉にしてはいけない場所のようだ。彼女は黙って瑞穂の戸惑いを聴いていた。 「紹介してくれた理香さんが、この世にはない神隠しの場所だったんじゃないかと言ってて、それですごく気になったんです」 「その場所を、あなたはどうしたいんですか」 問われた言葉に、瑞穂は目の前の現実を見た。言語機能を一瞬失っていた。心拍数が、さらに上がっている。自分で制御できない身体の変化に、瑞穂は今更ながら気づいた。 緊張とは違う。声を絞り出した。それは唯一、理性がなしたことだった。 「その場所があるのか、確認したいんです」 常識的な部分が、おかしな会話をしていると叫んでいる。ヒーラーというよくわからない業種の女性に、面と向かっていること自体が奇怪だった。非現実的だ。 「在るのかどうかと言われれば、あの場所は在ります」 静かに告げられた答えに、瑞穂は口許を押さえた。理性や感情とは別に、込み上げるものがあった。 幻でも妄想でもなかった。簡単な答えは、瑞穂が望んだものでありながら、目眩を感じさせるほどの引力を持っていた。リノウは淡々と言葉を続けている。 「神隠しのようだと言っていましたが、……確かに、それに近いものになるのかもしれません。この世にはない場所です。本来は、人が立ち入れるところではないんですよ。あなたがたまたま行けたのは、子どものときだったから、」 「そこに、誰かがいた記憶があるんです」 彼女の声に、瑞穂ははじけたように言葉を被せた。 人の立ち入れる場所ではない、というリノウの言葉はすぐに納得できた。あれほど澄んだ美しい場所が、この世に存在するはずがないのだ。地球上のどの景色にも勝る美しさだった。視覚から得る美しさの概念を崩壊させていた。全感覚が、あの場所の清らかさに奪われた。 ならば、その場所にいたのは誰だったのか。 「それは人ではありませんよ。あなたが来ると、よく遊び相手になってくれたようですね。お供も連れて」 淡々と語る口許がゆるんでいる。彼女の視えているものを、瑞穂も視て確認したかった。 確かに誰かがいたのだ。そのひとを幼い瑞穂はあの場所で待っていた。しかし、供をつけていたことまで記憶にない。そのひとにまつわることは、不自然に消えているのだ。おぼろげでもどうにか思い出そうとして、瑞穂は息を吸った。 「お供はわからないですが、そのかたは……男性のような服装をしていた気がするんです。でも、霊とかではなくて、」 「人の霊とかではなくて、とても高貴な部類ですよ。性別はないですが、確かに男性的な服装をしていますね。よく覚えていらっしゃいますね。ふつうは、記憶に残らないですし、残してもらえないものなんですよ」 瑞穂が知りたい答えが、するすると彼女の口から飛び出ていく。第三者から見れば、互いの妄想が共鳴しただけのような状況でも、当事者の瑞穂にはすべて本当のこととして胸の内に染みた。身体が熱い。ドクドクと心臓がわなないている。 「松行さん。あそこは、とても美しい場所だったでしょう」 リノウが愛おしむ表情で言う。その空気と静謐さを彼女も知っていた。あの美しさを理解していて、かつ心から愛していることが、瑞穂にはすぐわかった。瑞穂も同じ気持ちだったからだ。 彼女も、あの場所の持つ魅力を知っている。はじめて同じものを共有する者を見つけ、言葉が出なかった。嬉しくて何度も頷いた。 「あの場所は、この世のものではありません。出入りできるのは、ふつう子どもだけです。遊んでもらったというのも、めったにないことなんですよ。良い思い出になりましたね」 この話を締めようとする彼女に、目頭を押さえていた瑞穂は顔を上げた。子どもしか出入りできない、という言葉を耳にしたからだ。 「大人では、無理なんですか」 「無理です。あの場所へ大人が行ってしまえば、帰って来られなくなりますよ。あなたは覚えているでしょう? あそこは異様なほど澄んでいる。人の住める場所ではないんです。仮に大人があの場に触れてしまえば、こちらの世界には戻れない。全部持っていかれます。此処とは空気がまったく違う世界なんです」 静かな声で禁止を言い渡された。瑞穂のお気に入りにしていた場所が存在し、ともに遊んでくれたものがいる。しかし、もう行くことは叶わないのだ。 ここまでわかって駄目だと突きつけられたことに、彼女の顔から少し血の気が引いた。 「ということは、また神社に行っても、ないんですよね」 「ないですよ。たまたま、あなたは行けただけなんですから。それに、出入り口は常にあそこにはありません。神社の道が、あのとき少し伸びていたでしょう」 そう確認されて、瑞穂は黙った。その通りだ。三つ目の末社に行けるときだけ、いつもより少し坂道が長いと感じていた。 「じゃあ、あのかたに会うことも無理なんでしょうか」 「そうですね、あのときかぎりでしょう。そもそも棲むところが違いますから、」 彼女が答えながら、人差し指を天井に指した。瑞穂がつられて、その指を見る。 「すごく惹かれる場所なのは、とてもよくわかります。あそこはそういうところなんです。でも、行けただけでもすごくラッキーだったんですよ。行きたくて行ける場所ではないんですから。あなたはそうした世界で、かれらとも接することができた。それは、とても良い思い出なんです」 言っていることが、わかりますか。 瑞穂の思うところをすべて見通すように、リノウが口にした。 「思い出にできないのであれば、そのときのことをすべて忘れるべきです。人間が普段生きるうえで、あの場所はまったく関係することのない場所なんです。個人的な感情で、立ち入りが許されるところではない。特例は子どもだけです。絶対に子どもしか、行ってはいけないんですよ。そう思えないのならば、あの出来事をすべて忘れてください」 瑞穂は我に返ったように彼女の目を見ていた。奥深く押し込んだ欲を、見破られていた。 「あの場所を、絶対に探すな。行くな。……あなたの後ろにいるものたちが、そう言っている」 それは、とても厳しい制止の言葉だった。。 リノウという、ヒーラーに言われた数々の言葉が、瑞穂の心に膨れ上がっては、よく日常生活の時を止めた。 あの場所が在る。 そして、あの場所にかれは存在した。 それは瑞穂に強い高揚感を与えた。不可思議だと思っていた場所が、在ると肯定されたのだ。この世のものではないという注意書きがあったところで、在ることに変わりはない。第六感のような現象や存在をいつも話半分に聴く瑞穂も、自らの身に起こったことだけは真実だと思えた。 リノウの言うことを信じる。彼女の言葉で、確信を得たのだ。彼女とともに、紹介してくれた理香にも心から感謝した。 だが、ヒーラーの彼女にもう用はない。訊くべき事柄はすべて果たし終えてしまったからだ。当日も三つ目の末社の存在についての回答をもらっただけで、すぐ場を退散した。これ以上、自らの胸の内や未来を見透かされたくなかった。 瑞穂の心は、あの場所を見つけることにシフトしはじめていた。 リノウには、探すな、と、強く言われたものの、瑞穂からすれば何度も見つけたことのある馴染みの場所だ。瑞穂は自分の能力を過信した。神に近いような高貴なものたちに愛される資格がある、という、妙な優越感もわずかながら生まれていた。 あの場所を、私が見つけられないわけがない。そして、ふつうの人と違って出入りも自由だろう。 リノウが忠告した、大人が入れば戻れなくなるという発言を、瑞穂は他人事のように聞き入れた。つまり、自分は何度も出入りしていたのだから、大人になっても問題なく戻って来られるに決まっていると解釈したのだ。まず、入り口を探すことが先決だった。 リノウの冷たい瞳を思い出すと制止力が働くものの、好奇心や期待のほうが勝っていた。瑞穂は当時身につけた感覚を頼りに、翌週の三連休を使って実家を訪れた。すぐに見つからないことは重々承知で、三度ほど神社へ赴ける日程を立てた。 あまり実家へ寄りつかない末娘の来郷に、両親は不思議な顔をしたが大方歓迎していた。毎日朝から出かける娘へ、どこへ行くのかと問う彼らに、瑞穂は友人のところへ行く、と、うそぶいて家を離れた。 現地へ着くと、真っ先に神社の鳥居をくぐり、願いと期待を込めてすべての社に挨拶する。そして、下る坂から三つ目の末社を探した。それにも飽き足らず、幼い頃に遊んだ場所を何度も見直した。三つ目の末社のような入り口のヒントを探したのだ。 高貴な場所にふさわしいよう、清潔感のある服装で、神社の裏手にある林道や神社の外周をめぐる。大人の足で歩けば、昔思っていたよりもすべてがコンパクトに感じられた。神社の裏手は、山というより大きな丘に近い。頂を下る反対側の斜面は学校の敷地になっていて見通しよい森だった。未舗装の歩道から車道も見えた。神社が内包する世界は広くなく、三時間あればくまなく見てまわれる。 名の知れた神社というわけではなく、休日でも人の姿はとても少なかった。終日曇り空だったせいか、神社で遊ぶ子どもたちはいない。今時の子どもは、神社を遊び場にする発想がないのかもしれなかった。 一日目は神社とその周辺を思いとともに歩く作業で終えた。瑞穂はその先々で数々の迷信を思い出した。林道に大蛇がいる痕跡はなく、底なし沼地だと思われていたものは、濁ったちいさな池だった。そこに龍がいるけはいは微塵もない。 それらの迷信についても、リノウにどれが真実なのか訊けばよかったのかもしれないと思いながら、二日目を迎え、一日目と大差ない一日を送った。 彼女の言うように、探すことは無駄なことなのかもしれない。 晴れ渡った三日目の朝に、瑞穂は現実へ立ち返った。一週間以上、不思議な体験を得た場所についてとらわれていたが、時間の無駄のようにも思えてきたのだ。衝動のまま、やみくもに探してみた。しかし、元々子どもしか入れないとされる場所だ。感覚が常識や理性に染められた大人が、簡単に見つけられるものでもないのかもしれない。 それでも、あの美しい場所が恋しい。もう一度、足を踏み入れてみたい。大人は決して行けないというのであれば、せめてあのひとに逢いたい。 三日目の瑞穂は、かれの名を思い出すことに専念した。名前さえわかれば、祀られる神社を探して訪れることができる。彼女は、かれと出逢った神社に祀られている神々の名をくまなくチェックした。そして、おぼろげな感覚からどの地位にあるのかを引き出す。 子どもと遊んでくれるような性格、男装に近い服装、お供を引き連れるほどの位。リノウに詳しく訊いておけばよかっただろうが、彼女から知ってどうするつもりだ、と、厳しく追求されるに違いなかった。瑞穂の真意を知れば、彼女は非協力的になるはずだ。金もかかるリノウとのやり取りを考えるのであれば、自らの手で探したほうがストレスも少ない。 しかし、三日目も無策のままに午前中を使い果たした。瑞穂は大人しく、昼過ぎに実家へ戻った。落胆する気持ちはあったが、あの場所を探すよりも、かれを見つけることに専念したほうが早いかもしれないという新たな希望が生まれていた。 家族と夕食時まで過ごして、最終便の新幹線で帰路に着く。両親からも、以前住んでいた家の周囲にまつわる不思議な話などを聞き出したが、どれも手かがりにつながるような話ではなかった。 瑞穂は翌週から、インターネットや図書館などを活用して、日本の神話を洗いざらい調べる作業に暇な時間を費やすようになった。 早く見つけたい衝動に何度も駆られるが、生きているかぎり、多くのプライベートタイムをあの場所を探す時間にあてられる。かたちのない別世界の糸口を引き当てることは至難の業だ。息詰まったときはヒーラーたちの力を借りようと思ったが、リノウにこの行動を良く思われていない時点で、できるかぎり一人で探そうと心に決めた。あの場所とかれが在るという、自分のなかの記憶に賭けていた。 しかし、前向きな気持ちが持続するのは、二ヶ月が限度だ。これといって日本の歴史に興味がなかった瑞穂は、ややこしい神様たちの物語に少しずつついていけなくなった。仕事が年末に向けて忙しくなってきたせいもある。休日はなるべく人の誘いを断って図書館へ通い積めていたが、集中力が途切れることも多くなった。 二ヶ月を待たず、瑞穂はかれを探すための知識習得を放棄した。一応ノートに必要な情報を書き込んだのだから、あとはやはり足を使って探したほうがいい。しかし瑞穂は、幼い頃通いつめた神社しか探す地区を知り得なかった。 他に、そうした場所に近いところはあるのだろうか。 瑞穂は考えた末に、理香と会うことにした。ヒーラーと引きあわせてくれた彼女には、すでに電話でリノウに会った際のやり取りを少し伝えている。その話を詳しく聞きたがっていたが、彼女も予定が詰まっていたようで、なかなか会える機会がなかったのだ。 秋のにおいが色濃い夜に、瑞穂は理香へ電話をした。ちょうど用事がキャンセルとなった次の日曜日ならば空いているから、遅い昼食をかねて会おう、と、理香が応えてくれた。
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